川崎の地獄は日本の未来か? ディストピアでもがく不良たちのヒリヒリする生き様『ルポ 川崎』磯部涼インタビュー

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■ヒリヒリした毎日、今この瞬間を記録する意味

――『ルポ 川崎』を読むと、本当に今の日本に貧困が広がっているという事実が痛いほど感じられました。帯には「ここは、地獄か?」という衝撃的な一文もありますが、川崎に漂う、このディストピア感をどう思いますか?

磯部  本来、“ディストピア”という言葉は過剰に管理された社会のことを指していて、『ルポ川崎』でも冒頭で描かれる川崎の、ジェントリフィケーションが進み、暴力や差別、貧困の問題が不過視化された側面をそう言っているのですが、BAD HOPに導かれて同地の奥深くへ分け入っていった本編に関しては、もっと混沌としたイメージを持つひとが多いでしょうね。一方で、その中で現状を変えようとしている人々もたくさんいる。

 あるいは、人気高校生ラッパーだったのが、一時、アウトローの道へと進んだLIL MANを取材した章で、彼の運転するクロスオーヴァー・タイプのベンツに乗って夕暮れに染まる川崎の街を眺めながら、「また闇に飲み込まれるのだとしても、それはこの瞬間、確かに美しかった」と感じるシーンがある。それは、当然、シンボリックな描写です。この後、不良の若者たちがどうなるかはわかりません。ただ書き手としては、今この瞬間、彼らが活き活きとしている様子を記録して残しておきたかったんです。

 そういえば、インタビューをしたある不良の若者が「取材、これで2回目なんですよ。この間、『チャンプロード』(※)に載せてもらって!」と嬉しそうに言っていたことがありました。また、先程話に出た<ふれあい館>の鈴木健さんは、桜本フェスという音楽イベントを企画した理由として、過酷な環境にある子どもたちが「『でも、あの日は愉しかったよな』とフェスを思い出し、『またいいことがあるかもしれない。もう少し頑張ろう』と(負の)ループを抜け出してくれたら。そういう、小さくてもいいから、拠り所となる幸せな記憶をつくっていくこと、それって、“勝てないかもしれないけれど、負けないための生き方”なんじゃないかと」語ってくれました。この本も、彼らが10年、20年後になって「こういうこともあったな」と思い出してもらえたらいいなと考えています。

――川崎の不良たち自身は、地元や日本の将来をどう考えていると思いますか?

川崎の地獄は日本の未来か? ディストピアでもがく不良たちのヒリヒリする生き様『ルポ 川崎』磯部涼インタビューの画像10磯部涼(撮影:編集部)

磯部  ヒリヒリとした毎日を生きることで精一杯で、そんな大きなことを考えている場合ではないんじゃないですかね。彼らは選挙に行ったり、社会運動をするようなタイプではないでしょう。彼らがいる環境を知ると、それも仕方がないなと感じてしまう。ただ、だからこそ、彼らの暴力に満ちた生活に、如何に川崎という土地の、もしくは日本という国の歴史と現状が関係しているのか解き明かしたいと思いましたし、読者の方々にも本書を通してそれについて考えてもらえたらなと思っています。


 全国に先駆けて日本の未来を体現する街・川崎。しかし、決してすべてが陰鬱に覆われた“地獄”ではない。川崎だからこそ、人種や文化を超えた交流が生まれ、ヒップホップという文化が花開いた――。そんな希望をつないだ磯部涼のルポルタージュを、あなたもそっと手にとってほしい。

※ 2016年に廃刊になった暴走族雑誌。

★インタビュー前編はコチラ!★


磯部涼(いそべ・りょう)
1978年、千葉県生まれ。音楽ライター。主にマイナー音楽やそれらと社会の関わりについて執筆。著書に『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版)、『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)、共著に九龍ジョーとの『遊びつかれた朝に』(Pヴァイン)、大和田俊之、吉田雅史との『ラップは何を映しているのか』(毎日新聞出版)、編著に『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)などがある。
公式Twitter https://twitter.com/isoberyo

 

文=松本祐貴

1977年、大阪府生まれ。フリー編集者&ライター。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)『DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版)。新刊に編集として関わった『これからの時代を生き抜くための生物学入門』(辰巳出版)五箇公一著。
・ ブログ「~世界一周~ 旅の柄」 http://tabinogara.blogspot.jp/

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