川崎の地獄は日本の未来か? ディストピアでもがく不良たちのヒリヒリする生き様『ルポ 川崎』磯部涼インタビュー

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 それは日本の未来というか、世界の未来というか――。川崎中1殺害事件の際も、犯人グループの内のひとりがフィリピンと韓国にルーツを持つとされたことがヘイト・デモに火を着けましたが、混血化はグローバル化が進む世界では必然的に起こっていくことであり、日本政府のように外国人の労働力をあてにしながら、移民を差別するというダブル・スタンダードに陥るのではなく、現実にしっかりと向き合うべきではないでしょうか。

 さて、本書が川崎区に未来を見るもうひとつの理由は、いかにも現代日本的な話です。本書は若者たちのエピソードが中心ですが、川崎駅に直結したピカピカのショッピングモールを出て、川崎区を歩きながら感じるのは“くたびれた街”だということです。例えば、川崎駅周辺は風俗街という顔も持っています。もともとは赤線/青線地帯で、現在はソープランドが多いものの、いわゆる“ちょんの間”も現存します。そして、後者のメインの客層は50~60代、中には80代の客もいるそうです。働いている女性も、30代ではまだ若い方です。

 川崎駅前の繁華街では、臨海部の工場地帯で働く労働者のために“飲む・打つ・買う”の業種が発展してきましたが、その周辺にある日進町はいわゆる“ドヤ街”で、住居を持たない労働者が安価で泊まることが出来る簡易宿泊所が立ち並んでいます。2015年5月にそこで大規模な火災が起きた際には、宿泊者の多くが生活保護を受けている老人だということが話題になりました。それは労働者として経済成長を支えた人々の現在の姿であり、高齢化が進み、国としてシュリンクしつつある日本の未来の姿であると言えるかもしれません。

――増加している多人種の子どもたちは、なかなか十分な教育を受けられないんですよね。それが不良少年になっていく。

磯部  そういう傾向があることは事実です。例えば、00年代に増えたフィピン人の少年少女の中には、80年代の出稼ぎブームの際に先に日本に来ていた母親から、10代半ばになって、突然、呼び寄せられ、故郷の友達とは離ればなれになってしまうし、言葉も分からないし、不安定になる子も多かったようです。そして、その受け入れ先になったのがヤクザだったり、性風俗だったりした。だからこそ、先程、話に出た桜本のコミュニティ・センター<ふれあい館>では彼らを地元のコミュニティに溶け込ませるため、日本語教育に力を入れている。他にも、ラップ・ミュージックやスケートボードのようなグローバル・カルチャーが、様々なルーツを持つ若者たちを結び付けていたりもします。

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――不良少年たちは、自分たちの悪事を武勇伝のように話すのですか?

磯部  この本に出てくる不良達の証言を読んで「(話を)盛っている」と思う人もいるでしょう。ただ、自分としては彼らが活き活きと、多少大袈裟に語る様子こそが興味深いと思っています。あるいは、それは、いま生まれつつある都市伝説だとも言えるのではないでしょうか。話に出てくるのは、往々にして“友達の友達”――つまり、実在するのかどうかは分からない人物だったりするのですが、彼らはシャブ中になったらしい、人を殺したらしいアウトローの自由さに何処かで憧れながらも、人間として生きて行く最低ラインを教訓として学び取っていたりします。中1殺害事件も発生から3年近くが経って、地元の若者たちの中ではほとんど都市伝説のように語られているように感じますね。

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