川崎の地獄は日本の未来か? ディストピアでもがく不良たちのヒリヒリする生き様『ルポ 川崎』磯部涼インタビュー
■川崎探訪の醍醐味
――川崎の不良には、彼ら特有の“川崎オーラ”的なものがありましたか?
磯部 う~ん、どうなんでしょう。本書における中心的な語り部であるBAD HOPのT-PablowとYZEERは「川崎(区)がほかと違うのは、すぐに手を出してくるところ。東京だとまず掛け合いがあるじゃないですか。川崎はいきなり殴ってくるから、気を抜けない」と言っていましたが。
取材のために川崎駅の東口に降りるといつもいるスカウトが刺青をびっしりいれていたりするのも、他の土地だったら女の子は逃げちゃうだろうと思いましたね。あと、ヤクザの事務所が外にサンドバッグが吊るしていて、若い構成員がパンチを打っていたのもあまりにもこれ見よがしというか、ちょっと微笑ましい気持ちにさえなってしまいました。
――本書にもありますが、最近話題の「スラムツーリズム」という動きについてどう思いますか? また、本書を読んで川崎に行ってみたくなった人にアドバイスはありますか?
磯部 前編でも話しましたが、「東京DEEP案内」を始めとして、スラム・ツーリズム気分で川崎の臨海部に足を運び写真を撮って、面白可笑しく書き立てる記事やツイートは幾らでもありますし、それらの行為にうんざりしていたり、ピリピリしていたりする住民の方も多いです。ただ、本来のスラム・ツーリズムがそうであるように、そこから興味を持ってより深い問題意識へと向かっていく人もいるでしょう。また、不良の中にはそのような悪意に満ちた視線によるスティグマ(烙印)を反転させて、「ヤバい土地に住んでいるオレ」という風にアイデンティティを形成しているケースも多いので状況は複雑です。それでも、何処かの土地を訪れる際にそこの住民や歴史に敬意を持つことは当たり前の話ですよね。
僕としてお薦めしたいのは、川崎の臨海部に興味を持ったのなら、ご飯を食べに行くということです。例えば、ジャンク系でいうと川崎を中心にしたチェーン店「ニュータンタンメン」は、地元の若者たちのソウル・フードになっていますね。いわゆる担々麺とは全く違って、むしろチゲ・ラーメンなんですが、癖になる味です。それと、コリアン・タウンの焼肉は有名ですが、ぜひ、他の国の料理も食べてみて欲しい。桜本にあるペルー料理屋「エルカルボン」はペルー大使館御用達のロースト・チキンや牛肉とポテトフライを炒めたロモサルタード、シーフード・マリネのセビーチェなんかが名物だし、実はチャーハンも美味しい。ペルー料理って、中国系移民が多いことで中華料理も混じっているんですよ。それを地球の裏側の川崎で食べるという楽しさですよね。先程の話からの繋がりで言うと、日本のカレーなんかもそうですが、料理こそ混血化が面白い影響をもたらす良い例なんじゃないでしょうか。
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