映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』公開記念

母親が“ダイナマイト自殺”した男の死生観とは!? 伝説の編集者・末井昭インタビュー

 『写真時代』『パチンコ必勝ガイド』などの大ヒットで知られる伝説の編集者・末井昭の自伝的映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』の公開が3月17日に迫っている。

母親がダイナマイト自殺した男の死生観とは!? 伝説の編集者・末井昭インタビューの画像1画像は、映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』より


 この映画を青春映画としてみる人もいるかもしれない。とはいえ、主人公の末井青年は、そんじょそこらの若者とはわけが違う。彼にとっての自立と成長は、7歳のとき、母親のダイナマイト自殺から始まる。驚くほどへんぴで見るからに貧乏な村落にダイナマイトの爆発音が響く。母親の死の現場は、吹き飛んだ腸が木にまとわりついてクリスマスツリーのようだったのではないかと、幼少期の末井は想像したという。そんな驚愕の人生を歩んできた主人公にとって、表現者としてのひとつの覚醒といえる瞬間が、全裸で深夜の路上を駆け抜けるストリーキングだ。

「それが映画で再現されているんですけど、その日は1970年11月25日でした。なぜ、はっきり覚えているかというと、その日に三島由紀夫が割腹自殺したんです。映画を観る人のなかには、その頃、まだ生まれていない人もいるかもしれないけど、そんな時代を想像しながら観てもらえるといいかな」(末井昭)

 そう、末井昭はテアトル新宿で行われた舞台挨拶で語っている。同日、アメリカでは、NYのハドソン川でジャズ・サックス奏者のアルバート・アイラーが水死体で見つかっている。ペーソスというバンドでサックス奏者としても活動する末井にとっては、まさに特別な一日であったことだろう。

 さらに、このシーンでは、主人公を演じる江本佑が全裸で街を走り抜ける様子を見て驚く通行人役として、末井がカメオ出演している。つまり、末井は、映画というスクリーンのなかで、柄本が演じる若き日の自分と対面するのだ。その点でも、このシーンは、映画の最も重要な見所といっていい。

「すごい面白い雑誌を作ってきた末井さんを尊敬しています。末井さんのもとで働きたいと思ったこともありましたが、今は叶いません。だから、僕が出来ることは、末井さんを映画にして今を面白くすることなんです」

 冨永監督はそう熱く語った。実際、この映画にはいろいろな面白い仕掛けが隠されている。それらのアイディアは、雑誌編集者として数々の大ヒットを飛ばし、昭和から平成にかけての出版業界を駆け抜けてきた末井自身の感性ともシンクロするものだろう。

 TOCANAでも映画公開を記念して、末井昭のインタビューをお送りしたい。ちなみに、本記事のレポーターを務めたケロッピー前田、TOCANA編集長・角由紀子ともに、白夜書房の出身者であり、末井のもとで働き、編集を学び、いまは自分たちが情報を発信する側となっているのだ。さっそく、業界の大先輩である末井昭の言葉に耳を傾けてみたい。

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――お母さんのダイナマイト自殺が映画になって、どんなお気持ちでしょうか?

母親がダイナマイト自殺した男の死生観とは!? 伝説の編集者・末井昭インタビューの画像2

末井昭氏(以下、末井)「母親のダイナマイト自殺は、僕の看板のようになってしまっているので、草葉の陰でもうやめてくれと言ってんじゃないかと思いますよ。それでも映画のなかでは、尾野真千子さんという綺麗な女優さんが演じてますし、母親は綺麗に着飾ったり、お化粧したりするのが大好きだったんで喜んでいるんじゃないかな」


――具体的に感謝していたりとか?

末井「子供の頃は恨むこともありました。幼い子供を残して、よその男と勝手に死んでいっちゃったわけだから、自分勝手な人だなと。それでも、母親のダイナマイト自殺があったから、僕はデザインや編集、原稿書くことなんかをやってこれたと思っています。実際、母親のことばっかり書いているんでね」


――編集のお仕事をされてきたなかで、お母さんの件があったから自分の感覚は人とは違うと思われていたことはあるんですか?

末井「デザインを始めた頃は、母親の自殺を経験しているから、自分が選ばれた人間で、表現者になる資格があると思っていましたよ。すごい思い上がった気持ちだけど、若いから。そういうことはネガティブだし、あまり人に自慢して話すようなことじゃないし、隠す人の方が多いんだけど。それがあるから、ひとつの励みになったかな」


――路上で裸になったり、ギャンブルにハマったり、自分を捨てるというか、死生観には何か影響はありましたか?

末井「虚無的なところはあって、それはなかなか払拭できない。こういう風に人と話していたり、最近は映画公開に合わせてお祭りみたいになっているといいんだけど、そういうのがパッと終わったとき、フッと虚無的になりますね」


――それって、お母さんの自殺が原因なんですかね?

末井「わからないですね。母親が亡くなったのは、まだ子供のときだから。あとから自分でそう思うようになっただけかもしれないけど。とにかく、心中って、死までの期間や心の準備みたいなものがなくて、突然、パッと誰かがいなくなるでしょう。そういう感覚はありますね」

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