母の自殺、メンヘラ、心霊、寺の鐘…負の力を創作エネルギーに昇華する「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」がヤバすぎる!

 毎年行われるTARO賞の醍醐味は、優秀な作品に賞を与えるだけでなく、年ごとに優れた応募作品の中から“ある共通要素”を抽出し、TARO賞展そのものが時代を映す展示となるように工夫されているところにある。つまり、入選作品をセレクトする過程で年ごとの展示を特徴づけるようなキュレーションも意識されている。

 そして、今年のテーマといえるのは「負のパワー」、さいあくななちゃんしかり、作家自身の現実との葛藤が創作へと結びつき、過剰さを伴って展示全体を支配している。

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弓指寛治《Oの慰霊》

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弓指寛治《Oの慰霊》


 岡本敏子賞を受賞したのは、2015年の母の自殺を創作の原動力にしてきたという弓指(ゆみさし)寛治。今回の作品では80年代に飛び降り自殺して社会現象になった人気アイドルOをテーマに、そびえ立つビル、慰霊に集まったファン、上空を舞う鳥たちなどを描いた。弓指にとって、自死した母の棺桶に入れたものが自ら描いた鳥の絵だったことから、鳥は自殺者の彷徨う霊を象徴し、床や壁をびっしりと覆うのは、2015年の日本の自殺者数と同じ21764羽の鳥たちが描かれた絵馬のような木片である。

「自殺について調べていくと、アイドルOの話は必ず登場します。その死の直後には、後追い自殺が多発して社会問題にもなったほど。毎年4月8日昼12時になると、彼女が飛び降りた場所に集まってきて花を手向けることがずっと続いています。生身の人間がいなくなっても、死者との対話は、その人を思ったり、考えたりすることでずっと続くものなんですよね」 

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弓指寛治


 そう弓指はいう。彼の作品には、展示空間の中央に部分的にレンガが置かれた道が作られている。観客はそこに足を踏み入れ、絵画作品の間近にまで入っていけるが、そのレンガの道こそ、アイドルOの飛び降りた場所の再現である。作品に込められたものはかなり重いが、弓指は作品制作を通じて、自分が母の死を昇華していることこそ見て欲しいという。

「病気や事故で死んだのなら納得がいく。でも、自殺だと、あのとき、こうすれば良かったという思いに囚われ、他人にも話せないから自分の中に押し込めてしまうんです。でも、僕みたいに身内の自殺を芸術作品に昇華することができることを知れば、みんなもっと楽になってくれるんじゃないかと思います」

 この1年ひたすら作品制作に費やしてきたという弓指、受賞の喜びの笑顔が背負ったものを克服してきたことを教えてくれる。

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