時計が止まったとき ― “祓えんほど強か念”が円満夫婦を恐怖に陥れる!【実話怪談】

 作家・川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。


【三】時計が止まったとき

 関西在住の竹田昭仁さんと妻の佐登子さんは、共に郷里の九州で小・中・高と同じ学校に通い、26歳で結婚した。現在、お2人は52歳。最近お子さんが就職を機に独立され、久しぶりに夫婦水入らずの日々を過ごしていらっしゃる。

 昭仁さんと佐登子さんは、高校卒業後にそろって親元を離れ、入籍までの約7年間を大阪で暮らした。社会に出て初めて経験する試練の数々を、励まし合い、助け合って乗り切った――このことが2人を強く結びつけたわけだが、当時はもう1人、大切な仲間がいた。

 佐登子さんの親友、静江さんだ。

 彼女も同じ高校出身で、ほぼ同時に大阪に来た。だから、静江さんが2人より一足早く、23歳で大阪の男性と結婚したとき、誰よりも祝福したのは佐登子さんと昭仁さんだし、やがて彼女が子宝を授かると、2人はまるで自分たちのことのように喜び、親身になって応援した。

 ことに佐登子さんは、すでにその頃、昭仁さんと将来を誓い合っていたので、静江さんの妊娠や出産が他人事のようには思えなかったのだろう。

 だからこそ、実家から遠く離れて子育てすることの苦労も知ることになり、それが昭仁さんとの将来設計にも影響したのかもしれない。

 静江さんが結婚した頃から、佐登子さんは、将来は昭仁さんの仕事をサポートしながら子育てしたいと夢見るようになっていた。昭仁さんは、この数年の努力が実ってイラストレーターとして才能を開花させつつ、同時に、オートバイのメカニックとしても独り立ちできる実力をつけていたのだ。

 そして、昭仁さんもまた、夫婦二人三脚で働きながら子供を生み育てることを真剣に思い描いていた。「子供」の2文字から彼の頭に浮かぶのは、郷里の川や野山だった。

 ――そうだ、故郷に帰ろう。

 仕事にせよ育児にせよ、双方の実家に協力してもらえれば、自分たちの負担はそれだけ軽くなる。自然が豊かな環境も、子供にとっては好ましい。

 静江さんと離れ離れになるけれど、大人になるとはそういうことだ――。

 結婚と帰郷の計画を打ち明けると、静江さんは「寂しゅうなるなぁ」と言いながらも、2人の門出を祝ってくれた。

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