アラーキー告発「#MeToo」問題にある“強烈な違和感”の正体とは!? “男根時代”を裁く複雑性を作家・石丸元章が語る

■アラーキー批判に感じる強烈な戸惑いの理由

 ご存知の通り「アラーキー」という愛称でも知られる荒木経惟さんの作品は、国内外で高く評価され、ファンも多い。その中で、私たちの“妖しい巨匠”アラーキーのキャラクターとKaoRiさんの告白は、一部が一致し、一部は違和感をもって捉えられた。

 その違和感とは、つまり――緊縛や陵辱をイメージさせる作品を制作しているからこそ、「荒木さんとモデルとの間には昇華した信頼関係と理解があり、経済関係においても相互の納得があるに違いない」という思い込みが、思い込みに過ぎなかったと突きつけられた戸惑い――それに尽きる。

 KaoRiさんの#MeTooを受けて、SNS上には嵐のようなコメントが吹き荒れた。その多くは荒木さんを個人的に強く批判・非難するもので、荒木さんのこれまでの作品群をまるごと否定するような極端な言葉までもがあふれかえった。

 その一方、荒木さんと同じ時代に、エロ写真を盛り上げてきた出版業界からは、あまり非難が聞こえてこない。聞こえたとしても、「当時の日本の出版業界では、写真家とモデルの間で書面化した契約を結ばないのは当然であって、いまさらその不備を荒木さんに問うても仕方ない」「今は時代が変わり、契約書の有無が大切になっている」というように、いつの間にか#MeTooが“手続き問題”にすり替わってしまっていたり、「自分も当時、同じエロ本業界で飯を食っていたのでいたので荒木さんを非難したくない」と、問題の本質から逃げてしまったり、あるいは「当時としては、少なくとも表面上はモデルも納得していたはずで、いまさら言われても荒木さんも気の毒というものだ」と、問題を写真家とモデルの“個人の関係”に矮小化してしまったりで、自分としてはどれも違和感が残る。本当にそれでいいのかな。

 違うんだよ。KaoRiさんは当時、シャッター音を聴いていたその瞬間から、ずっとぼんやり感じていた“気持ち”の話をしているんだよ。ぼんやり感じていた違和感が、時間の流れの中で確信に変わったから、それを#MeTooとして語ったんだよ。KaoRiさんの告白が、荒木経惟さんを個人的に非難することや、経済的な不公平さを訴えることを主眼とするものでないことは、文章を読めばわかる。

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