アラーキー告発「#MeToo」問題にある“強烈な違和感”の正体とは!? “男根時代”を裁く複雑性を作家・石丸元章が語る

■時代が時代を裁いている

 自分は、この「#MeTooムーブメント」について、新しい時代の価値観が、過ぎた時代を裁いているものだと捉えている。申し訳ないけれども――アラーキー、あるいは篠山紀信でも加納典明でも、他のカメラマンでもいいけども。あらゆるフェティシズムや男根的性欲を具象化してくれる代表者が、その時代の中では、彼らだったんだよ。

 だから、当然ながらこの問題は実名の写真家個人だけの問題ではない。感受者を含めた、時代そのものが断罪されているんだ。故に、心が痛い。かと言って、過ぎた時代の“共犯者”である自分は、到来した新しい時代に対して、土下座して赦しを乞うべきなのだろうか――? 実はその点についても、私には強い違和感がある。

 とにかく今、自分の心中にある最も大きな感情を正直に言うならば、昨年の暮れに始まった「#MeToo」という時代が時代を裁くムーブメントの中で、ある日突然、自分が“裁かれる時代の側に立っている”ことを知ったという驚きだ。時代が時代を裁く事例は、これまでも山ほどある。特に戦争なんてのはそうだよね。戦後ずっと、特定のナチス親衛隊幹部が追われ続け、そして裁きにかけられてきたことは、個人の枠を超えて、ナチスの時代が永遠に断罪され続けることの強い表明であるし、だからこそ、そこには意味がある。

 いまアメリカ各地で、新大陸の発見者コロンブスの銅像が壊されたり汚されたり、撤去されている話だってそう。到来した時代にとって、コロンブスはもはや英雄ではない。「侵略者は時代を超えて断罪すべき対象なのだ!」という意思が象徴されているのだろう。

 あるいは、私自身が目の当たりにした光景もそうだ。恐らく同窓会で集まっていた老人たちが酒席で軍歌を歌いだした時、「戦争を賛美する歌を歌うなんてけしからん!」と、その場で昂然と憤りを表明した下の世代がいた――でも、老人たちは戦争を賛美してるわけではなくて、自分たちの青春時代を懐かしみ、声を合わせて歌っているに過ぎないのだ。まともな歌謡曲がなかったから――と、そのときのモヤモヤした気分の正体には、後になって気づいたのだけれども。

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 KaoRiさんの「#MeToo」を受けて、端的に言えば本当に心が痛い。私には、強く印象に残って、かつて繰り返し眺めつづけたアラーキーの作品がある。もちろんその当時は、写真家とKaoRiさんの間の微妙な心理関係など知る由もなく、ある雑誌に掲載されたその写真に魅せられていたのだが。でも自分は、本当はどこかぼんやりとKaoRiさんが心の奥底で感じていた撮影現場での、その瞬間への違和感というか拒否感を感受して、それに向かって、自らの劣情を発していたのではないのか。

 裁かれる時代の側に立つことになった感受者としては、できることなら、自分の気持ちを裸にしてこれを受け止めたい。荒木経惟とか篠山紀信とか加納典明とか、わざわざ例に挙げて大先生方にはホント恐縮だけれど、誰彼という個人を糾弾する審判に矮小化されることなく、「時代が時代を裁く」という複雑性の中で、この「#MeToo」というムーブメントが有意義な議論を生むことを期待します。

文=石丸元章

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