一般人への化学兵器「ノビチョク」使用はロシアの報復か!? 裏にある“英露の壮大な諜報戦”がヤバイ!
――軍事研究家・塩原逸郎が緊急寄稿!
今年3月、英ソールズベリーで元ロシアスパイとその娘に対して使用された化学兵器「ノビチョク」が、6月30日再度英国内で使用された。現場は、ソールズベリーから十数キロ離れたエイムズベリー、被害者は40代の英国人男女2名である。
筆者は過去の記事で、英露間の壮大な諜報戦の内幕を明らかにし、「ノビチョク」による元ロシアスパイ暗殺未遂はその氷山の一角に過ぎない、との評価を下した。そして筆者は、今回の「ノビチョク」使用事件も、同様に英露間の諜報戦争の一端が現れたものと見ている。「ノビチョク」は旧ソ連が開発した生産に高度な技術を必要とする化学兵器であり、これを扱って暗殺作戦を遂行可能なのは、ロシア諜報機関だけだ。
ではなぜ今、ロシアは再度英国での「ノビチョク」使用に踏み切ったのか? 理由は明白である。ロシアによる英国への報復だ。
「ノビチョク」が使用される2日前の6月28日、OPCW(化学兵器禁止機関)の締約国会合で、次のような英国の提案が可決された。シリアでの化学兵器使用に関するOPCWの査察権限を、使用の有無のみならず、誰が使用したかまで強化するという内容である。これは、自国民に躊躇なく化学兵器を使用してきたシリア・アサド政権の後ろ盾であるロシアにとり極めて不都合な事態である。ロシアは国際社会が見ている中で、英国に面子を潰される形となったのだ。こうしてクレムリンは、即時に英国に報復目的の暗殺作戦を仕掛ける事を決断したのであろう。
今回のケースは、暗殺ターゲット選定が今までとは異なっていた。ロシア諜報機関が今まで英国内で実行してきた暗殺作戦の標的は、リトビネンコやスクリパリ、ベレゾフスキーといった反プーチン的傾向の強い亡命ロシア人であった。ところが今回は、一般の英国人男女が標的とされた。果たして何故か?
筆者は、ロシアが「ノビチョク」をありふれた化学物質であると欺瞞するために一般人を標的としたと分析している。一般人の殺害に使われるほど流通している化学物質であると国際社会に喧伝することができれば、スクリパリ暗殺未遂事件のロシアの関与を疑う人々も増えてくるであろう。これこそが、今回ロシアが一般人を標的とした理由だと考える。
今回の事件を契機に、英露間の諜報戦争はさらに激しいものとなっていくと考えられる。特に英国側は、先日の記事で紹介した英広告代理店「ベル・ポッティンガー」の創業者であるティモシー・ジョン・ベル卿の力を用い、メディアをコントロールした上でロシア批判を活発化させていく事であろう。ロシア側も、政府系メディアやSNS上でのハイブリッド戦争を用い、情報戦を強化していくものと見られる。
読者の方々にも、英露間の壮大な諜報戦争の行方を是非とも見届けていただきたい。
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