■神々の異界
90年代に入ると、内藤さんはライフワークとなる「神々の異界」の撮影に着手する。「神々の異界」は、「修験道の霊山では“視える自然”の背後に、人間が意味づけた“視えない自然”が隠されている。(中略)修験道の回峰行や登拝が近代登山と大きく異なるのは、“視えない自然”も同時に歩くことだ」という内藤さんの思想を元に、修験道の世界観を視覚化したシリーズだ。
『七面山』「神々の異界」より 1990年 発色現像方式印画 作家蔵
例えば、『七面山』という作品は、日蓮上人と縁深い山岳信仰の聖地であるこの山の山頂から、秋分の日に、富士山を仰ぐさいに、ちょうど富士山の中心を貫くように太陽が登る現象を撮影したものである。また、『富士山』は富士講の始祖、江戸時代の行者であり、幕府の政治に抗議するために断食の末、即身仏となった食行身禄が富士山頂から東京を眺めた視線を再現したものだ。
『富士山』「神々の異界」より 1992年 発色現像方式印画 作家蔵
写真というメディアを使い、日本の神々たちの空間思想をマンダラ的に可視化するこのシリーズは以降、内藤さんのライフワークとなる。