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 以前、トカナでもお伝えしたが、ヴィクトリア時代の英国には、正真正銘のキテレツ哲学者がいた。彼の名はジェレミ・ベンサム。自分が死んだらミイラ、正式には「オート・アイコン(自己標本)」にしてくれと遺言して、実際に剥製になったことで有名だが、彼の遺言状には、さらに風変わりな願い事が記されていた。それは、自己愛の集大成のような指輪を、彼が親愛する人々に「形見の品」として贈呈するというものだった――。


■奇才ベンサムが計画的に遺した形見の指輪

 英紙「Daily Mail」(9月10日付)によれば、ベンサムのミイラが展示されているロンドン大学では、現在6点の指輪を保管しているという。そのうち4点は、指輪を贈られた本人が亡くなったあと、遺族により大学博物館に寄贈されたものだ。

memorialrings1.JPG
Live Science」の記事より

 5点目のフランスの経済学者ジャン=バティスト・セイに相続された指輪は、ごく最近になって国際競売会社クリスティーズでオークションにかけられたものを大学が落札。6点目の功利主義哲学者ジョン・スチュワート・ミルが所有していた指輪は、ロンドン大学の卒業生によってアメリカ・ニューオリンズの宝石店で発見されたという。海を渡り、どれだけの距離を指輪が旅したのか興味は尽きない。

 奇才ベンサムの指輪には、彼のオリジナリティがつまっている。飄々とした横顔がシルエットに浮かび、自筆サインが刻印され、裏側の「遺髪入れ」には彼の髪の毛が納められているのだ。

 ちなみに、シルエットを描いたのはジョン・フィールドという画家で、ベンサムが亡くなる10年前の1822年に遺影として請け負ったことが判明している。フィールドはイギリス国王ウィリアム4世や王妃アデレードの肖像画を手がけた巨匠で、ベンサムのシルエット画を書き上げるのにものの5分もかからなかったという。

 また、遺髪を指輪に忍ばせることは、今日ではやや気味悪いかもしれないが、当時はごく普通のことだったらしい。おそらく、人の死や遺体そのものが、現代よりずっと身近だった時代ならではの感覚なのだろう。

memorialrings2.JPG
Live Science」の記事より

 実は、このユニークな指輪の構想は彼がまだ21歳の時に始まったというから恐れ入る。彼ほどの頭脳の持ち主になると、死んでから自分の名声が後世に残ることを戦略的に選んでいたのかもしれない。実に、早熟な“終活学生”だったようだ。

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