新宿でしか手に入らない「歌舞伎町文学」がエモい! 本の既成概念を打ち砕く『ヴァイナル文學選書』の理念を制作陣に聞く!(後編)

新宿でしか手に入らない「歌舞伎町文学」とは? 
制作チームに聞いた『ヴァイナル文學選書』の理念

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※10月19日、東京・新宿歌舞伎町を舞台とした4篇の掌編小説が、新宿区限定でリリース。その名も「ヴァイナル文學選書・新宿歌舞伎町篇」(URLはこちら)。作家陣は企画人の石丸元章を筆頭に、海猫沢めろん、漢a.k.a.GAMI、菊地成孔という強烈すぎる顔ぶれ。この4人が「歌舞伎町」をテーマに、それぞれ1万字強の掌編小説を競作した。
<前編はこちら>


■ヴァイナル文學、こだわりの装丁

 ここで今回のヴァイナル文學の装丁に触れておこう。各4作品の表紙、裏表紙には、それぞれ歌舞伎町の町並みを撮影した写真が掲載されている。歌舞伎町なじみの筆者にとっては、いずれも見覚えがあるようでいて、しかし、いずれもかつて見たことがない風景。眺めていると、あらためて歌舞伎町の街を散策したくなるような気持ちにさせてくれる、実に魅力的な写真群だ。

 撮影を担当したのは、カメラマンであり俳優の永山竜弥。俳優の瑛太、永山絢斗の実兄であり、ヴァイナル文學シリーズにおいては3月に制作されたプロトタイプ版である「雑司ヶ谷篇」以来、写真を提供している。

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「作品を読んで、そのインスピレーションに誘われるままに、カメラを持って歌舞伎町を散策しながら撮影した感じです。とにかくどの作品も強烈で、読後に歌舞伎町を歩くとまるで知らない街を歩いてるような感覚に襲われたのが印象的でしたね」

 石丸もまた「この四作品を新宿で購入したなら、その場で開封して読んで欲しい」と語っていたが、それはつまり文學とともに「街」を体験して欲しいということ。実際、作品を読む前に眺める歌舞伎町と、読んだ後に眺める歌舞伎町とでは、永山が言うように印象がガラリと変わるはずだ。そうした楽しみ方ができるのも、ヴァイナル文學ならではということだろうか。

 なお、シリーズの装幀、割付など、ヴァイナル文學のアートワークの全般を担ったのは、デザイナーの井上則人。「筑摩書房からコアマガジンまで」を標榜し、伝説の雑誌『写真時代』以来、エディトリアルデザインの世界を牽引し続けてきた、知る人ぞ知る巨匠である。

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見たことのない文字組って作れないものかとぼんやり考えて組みました。ただ、いざ作業を始めると見たことないものって誰も見たことないし想像できない。本文のフォントでも自作するか、とか迷走し、煮詰まって、最初にマークから作ったんです」

 ヴァイナル文學のアイデンティティである包装ヴィニール、その表側には、それぞれ銀色のシールが貼られており、「ヴァイナル文學選書」と刻印されたシリーズのマークがメタリックに輝いている。

今後、誰がこのシリーズに来てもいいよう、マークについては具体的な図版を用いず、文字だけで組もうと考えました。最終的に長円形と罫線を使っちゃいましたが。ただ、マークが出来たことで気持ちが楽になると、この片面刷りの枚葉印刷という形式は、裏映りしないし、ページによって行数が違っても気にならない、つまり、こちらの気持ちを埋め込みやすいと気がついたんです。これは演出できるな、と。結末に向けてはやる読み手の気持ちを時間調整すればもう、気分は演出家です」

 細部にまでこだわりが行き届いていることは、実際に手にしてみれば分かる。小説の面白さに心を奪われる前に、まずこうした細やかな仕掛けに目を向けてみることで、より作品を深く堪能できるのではないだろうか。

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