平成最後の「超大麻論」― 宮台真司✕高樹沙耶✕石丸元章「世界が大麻を合法化する本当の理由と思惑」

平成最後の「超大麻論」― 宮台真司✕高樹沙耶✕石丸元章「世界が大麻を合法化する本当の理由と思惑」の画像4高樹沙耶・近影

高樹 いま、ちょうど、ジュネーブで世界保健機構の薬物依存専門家委員会第41回会議が開かれています(11月12〜16日)。第40回会議ではCBDは乱用や依存の症例報告はなく、公衆衛生上の問題はないとされました。第41回会議では 大麻植物と大麻樹脂、大麻抽出物とチンキ剤、△9-THC、THC異性体が議題になっているんですが、大麻が国際規制の対象から外れる可能性が高いと言われています。私はすごく楽しみにしているんですけれど、日本ではどうなるのかというと……。ちょっと見えないところがあります。宮台さんはどう考えていらっしゃいますか?

宮台 日本はもともと麻とともに暮らす国でしたが、占領時代にアメリカが大麻栽培を禁止する方向に動いた。いろいろな理由が都市伝説的に語られますが、アメリカ産綿製品の市場をこじあけるために、大麻に悪いイメージを植え付けて大麻栽培を禁じたとも言われます。いま市場にある衣料などの麻製品から、大麻は除外されています。

石丸 自分は脳出血をやって、初めて麻痺という状態を体感的に知りました。で、麻痺した感覚が麻薬をやっている時と似ていることに興味をもって調べたんですが――「麻痺」という字は、本来は「痲痺」という字だったんで、つまりそれは「痲薬」の「痲」と同じ。「大麻」の「麻」とは、そもそもの由来からして違う漢字なんです。今の当用漢字だと、大麻という字が「麻薬」の「麻」だと思うから、みんな大麻=麻薬と連想してしまう部分があるけど、戦後までは、大麻は「麻」、麻薬は「痲」と、明確に字としても違っていたんですよね。

高樹 そうなんですよ。

石丸 入院中暇だから。宮台さんは「アメリカでは大麻を統治に使おうとしている」とおっしゃっていましたが、なかなかその視点をいう人はいません。「大麻は自由の象徴」だと思われてますから。どうでしょう、大麻は社会統治に有効なんでしょうか? 大麻を喫ったくらいで、人々は気持ちよくなっちゃって統治しやすくなるんでしょうか。大麻は比較的軽い快楽をもたらす物質だと思いますが。

宮台 大麻が多種の成分を含むのもあって酩酊には個人差があるけど、マリファナが解放シンボルになったのはハッピーになれる人が多いからです。アメリカではアンハッピーな人がオピオイド依存症になっているので、統治戦略として注目される訳です。実は多くの人には、鬱々とした気分を転換できるような軽い快楽で十分なんですよ。

 ただし医療用に解禁すると、横流しされて娯楽用に使われるようになります。だから医療用の解禁だけでも、横流しを黙認すれば、統治戦略として意味があるんです。
 ハッピー化以外の統治戦略としてのもう一つの意味は、アンダーグラウンド勢力潰し。大麻は誰でもどこでも栽培できるので利幅が薄く、非合法にしておくとアングラ勢力が高値のハードドラッグをクライアントに勧めてくる。ASKAのケースがそうです。

石丸 日本では、大麻がゲートウェイドラッグ、つまり大麻を入り口にほかのハードドラッグの使用につながると言われています。厚労省の主張もそう。どう思われますか。自分はもう、麻薬的なものなら片っ端からやってきたので、これについては何と言っていいか微妙で。

宮台 とっくに反証された議論で、日本でしか通用しません。ゲートウェイドラッグになるのは、非合法化してアングラ勢力に余地を与えるからというのが国際常識です。

高樹 そうなんですよね。

宮台 Netflixではずいぶん前から大麻料理番組をやっていますが、政治的な思惑を感じます。

石丸 興味深い視点です。

高樹 マリファナ料理対決番組『クッキング・ハイ』ですね。

宮台 日本でも音楽系の人たちの間で話題です。あのアメリカ製の番組が面白いのは、最後に「番組では各地域で合法の医療大麻を使っています」とテロップされること。医療用なら、処方された人しか使えないから、意味がわからないぞという(笑)。

石丸 なるほど。その指摘は深いですね。

宮台 出演者たちがみんないかにも幸せそうなので、イメージコントロールを目的としているのは確実でしょう。政府関係者の「積極的な黙認」があると思われます。和気あいあいで心穏やかになれるのだから、医療用を含めて娯楽的に大麻を使えばいいじゃないかと。使用法を含めてサジェストしていることが特徴です。

高樹 日本のテレビでも、食べものを粗末に扱う番組がありますが、最後に「残りものはスタッフが食べました」なんてテロップが流れる。そういうエクスキューズですね(笑)。

石丸 「良い子はぜったいにマネしないでくださいね」とか。ほんと、子供はダメですよ。今日、お話をして強く思ったのは、今、大麻を語るということは政治を語ることと同義だ――。ということです。
  
というわけで――今回から始まったシリーズ“高樹沙耶大麻をめぐる対話10番勝負”ゲスト首都大学教授宮台真司先生、まだ続きます。ステイチューン☆

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◎石丸元章(いしまる・げんしょう)
1965年8月9日、千葉県生まれ。作家、ライター。高校在学中にライターデビュー、人面犬ブームの仕掛け人。著書に『スピード』『アフター・スピード 留置場→拘置所→裁判所』『平壌ハイ』『神風』(すべて、文春文庫)など多数。近作に『聖パウラ』(東京キララ社「ヴァイナル文學選書 第一弾」)
・@chemical999

◎高樹沙耶(たかぎ・さや)
1963年8月21日、静岡県生まれ。元女優、元作詞家、石垣島のキャンピングロッジ 「虹の豆」オーナー。1983年に主演映画『沙耶のいる透視図』で女優デビュー、映画&ドラマシリーズ『相棒』ほか、数多くの作品に出演、人気を呼ぶ。著書に『贅沢な暮らし—衣食住が育む「心のラグジュアリー」』(エクスナレッジ)、『ホーリープラント 聖なる暮らし』(明窓出版)ほか
https://www.facebook.com/nijinomame/

◎宮台 真司(みやだい・しんじ)
首都大学東京教授。社会学博士。東大助手(現・助教)や東京外国語大学専任講師を経て07年より現職。著書に『14歳からの社会学』(世界文化社)、『正義から享楽へ』(垣内出版)など。

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