「風の谷のナウシカ」に隠された意外な元ネタ民俗学4!

2、逆転のストーリー

 3つ目の特徴に挙げた「逆転のストーリー」、つまり、もっとも忌み嫌われた存在が、実は大きなことを成し遂げてヒーローとなる、または神に近い存在となるというのは、世界的に多くの場面で使われている。日本では、小さくて忌み嫌われた一寸法師が鬼退治をして、お姫様をゲットする「一寸法師」などがそれにあたる。ヨーロッパでは最も貧困のマッチ売りの少女が、最後に神様の下に行けるというストーリーも逆転のストーリーである。

 「最も世の中で嫌われているものが、もっとも世俗を超えたパワーを持っている」という発想は民俗学的にはよく語られる話で、この発想こそが神の存在の根源となっているのではないかと提唱する比較文化人類学者も少なくないのである。
 
 このように考えると、ナウシカと一寸法師など、今までの日本の物語とつながるところがある。

 

3、平安時代の「堤中納言物語」

 それが平安時代後期以降の作品が集められた短編物語集「堤中納言物語」の中にある「虫愛ずる姫君」という話だ。この物語は蜂好きで「蜂飼大臣」と称された太政大臣・藤原宗輔とその娘がモデルであるとも言われている。

 あらすじは、按察使(あぜち)大納言の姫は美しく気高いが、年頃になっても化粧をせず、お歯黒を付けず、ゲジゲジ眉毛のまま、引眉せず、平仮名を書かず、可憐なものを愛さず特に“毛虫”を愛する風変わりな姫君だった。その様子を屋敷に入り込んだ風流な貴公子が覗き、歌を詠みかける。「かは虫の毛ぶかきさまをみつるよりとももちてのみまもるべきかな(毛虫のように毛深いあなたの様子を見たときから、私がお世話をして見守りたいと思っています)」。

 返事をしないので女房が返歌「人に似ぬ心のうちはかは虫のなをとひてこそいはまほしけれ(普通の人とは違う私の心のうちは、毛虫ならぬあなたの名をうかがってから申し上げましょう)」。これに貴公子は「かは虫にまぎるるまゆの毛の末にあたるばかりの人はなきかな(毛虫と見まがうほどの眉毛をしたあなたに、ほんの少しでも比べられるほどの人はいませんよ)」と詠う。

 そして、この物語は、「二の巻にあるべし(つづく)」と結ばれるも、なにもつづかず話はここで終わる。何とも中途半端な終わり方だが、このモデルとなった藤原宗輔が保元平治の乱に巻き込まれ、書き手や伝え手がいなくなってしまったからであるとされている。

 さて、この「虫愛づる姫君」に出てくる風変わりな姫君も、年頃にもかかわらず化粧もしない女性であり、ナウシカを想起させる。そして貴公子は、アスベル。ナウシカの代わりに返事をする女房を、何事も器用にこなすユパと解釈すれば、ここにナウシカの話が出来あがってくるのである。


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