「風の谷のナウシカ」に隠された意外な元ネタ民俗学4!

4、三極の対立の物語

 主要登場人物で宮崎駿氏の作品に出てくる「王女」は、このナウシカとクシャナ、そしてすぐに死んでしまうペジテのラステルだけだ。しかし、ラステルはすぐに死んでしまうので、実質的にはナウシカとクシャナだけである。その双方が、大人でありながら結婚もせずそのまま虫との戦いになっている。

  クシャナの属するトルメキア王国は「火の国」であるのに対して、ナウシカは「風の谷」である。そして、ラステルのペジテは、巨神兵を動かす『秘石』をかくしもち、巨神兵を眠りから覚ませた国、つまり、「伝説の土地」だった。そう、ナウシカは伝説の土地を軸とした戦争を「火」と「風」で争い、そして「風が火を消す」という話なのだ。

 「風」と「火」の関係も面白い。空気がなければ火は燃えず、その火があることで空気が動いて風が起きる。その風が強くなると火が消える。この二つの微妙な関係が、「王女」という代表者であり、なおかつ「結婚をしていない女性」つまり「巫女」というような設定を想起させる状態で書かれているのだ。ナウシカの処女性はここにあるのだろう。

 ある意味で「火の神と風の神と水の神(=水や空気を綺麗にする腐海に住む王蟲)の戦いと融合」がこの「風の谷のナウシカ」の重要なテーマになっており、三つの神のぶつかりを、「水の神=王蟲」「風の巫女=ナウシカ」「火の巫女=クシャナ」という関係で書かれているのである。

 日本人は民族的に「単純な二極対立」ではなく「三極の対立の物語」が非常に好きで、中国の物語にかかわらず「三国志」が人気だるのもその影響である。まさに「風の谷のナウシカ」は、このように逆転のストーリーや三極対立や伝説を利用してうまく日本とヨーロッパの神話を組合わせたストーリーになっているのである。このあたりを意識して映画をみると、より一層楽しめることだろう。
(文=宇田川敬介/民俗学に詳しいジャーナリスト。近著に『暁の風 水戸藩天狗党始末記』(星雲社)など多数。)

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