人類は噂話と陰口で進化した!? 映画『誰もがそれを知っている』で描かれる村社会のヤバさを高橋ユキらが解説!

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■人類は噂と陰口で進化した!?

『つけびの村』のエピソードを受け、中瀬氏は「本作の舞台を大都会ではなく村にした理由は、独特の人間関係や閉塞感が大事な作品のテーマだから」とファルハディ監督の言葉を紹介。

 その上で、2016年のベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)にある「人類の言語は噂話と陰口によって発達した」という記述を引用し、噂話と陰口こそ人類の繁栄に欠かせない要素だった可能性を指摘した。集団の規模を大きくするために、「どこに何がある」「あいつはヤバイ」というように大事な情報を共有する必要があったのだという。

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中瀬ゆかり氏

 さらに中瀬氏は、動物と人間のコミュニケーションの違いについて「動物の場合は、『今そこにライオンがいるから危ない』と今起きている事態を伝えることしかできない。しかし、人間は言語によって、『3年前にライオンに足を噛まれて痛かった』など、物事や人物について時空を超えて話せる能力を獲得した」と語り、このような情報共有によって人類は発展したと語る。

 そして、「噂話と陰口は、人類の歴史と切り離せないもの。実際に我々の会話における内容の8割はそこにいない人の話なんだそうです」と指摘する。つまり人間の会話とは、ほとんど噂話をしているようなもの、というわけだ。そして、中瀬氏は「本作を観てから改めて『つけびの村』を読むと、悪口や噂話はなぜこんなに楽しいんだろうと改めて感じます」と語った。

 高橋氏も取材中のエピソードを披露しながら、村社会における情報の“筒抜け感”が本作と通じており、そして時に「あいつには金がある」というような間違った噂が事件を誘発することもあると指摘する。両氏とも地方出身であり、故郷の閉塞感を嫌って上京したというが、だからこそ映画の設定が一層リアルに感じられたのかもしれない。

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© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION – MORENA FILMS SL – LUCKY RED – FRANCE 3 CINÉMA – UNTITLED FILMS A.I.E.

 ペネロペ・クルスとハビエル・バルデムというスター夫婦の共演も本作の大きな魅力だが、2児の母にして美貌とナイスバディを維持する45歳のペネロペ・クルスを両氏共に大絶賛。さらにハビエル・バルデムについて「あんな生命力のある男性が好き」と、女子らしいトークも炸裂していた。

 映画では、娘を誘拐され、村人たちと交流するなかで、幸せだったはずの主人公ラウラの家族の闇が次々と暴かれる。疑心暗鬼に陥る登場人物たちのドス黒い感情が実に生々しい。最初はキレイに着飾り、幸せオーラ全開だったラウラが、劇的に変貌していく様も見ものだ。閉塞感と息苦しさ、さらにラウラとその元恋人パコの“やけぼっくいに火がつくか?”という恋愛模様にもハラハラさせられ、極めて濃厚な2時間13分が展開される。

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© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION – MORENA FILMS SL – LUCKY RED – FRANCE 3 CINÉMA – UNTITLED FILMS A.I.E.

 牧歌的で自然豊かなスペインの村は、やがて陰湿な闇で覆われはじめ、美しい風景すら淀んで見える。鑑賞を終えた後も、ずっしりと心に重く響く不思議な余韻が残り、思わず何度も見たくなる魅力をたたえる映画だ。この映画を見れば、知ってはいけない他人の秘密を覗き見しているような、また、自分もこの息苦しい村の住民になったかのようなスリルが味わえるだろう。

(取材・文=白神じゅりこ)

 

人類は噂話と陰口で進化した!? 映画『誰もがそれを知っている』で描かれる村社会のヤバさを高橋ユキらが解説!の画像10映画『誰もがそれを知っている』

6月1日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開!

監督・脚本 アスガー・ファルハディ『彼女が消えた浜辺』『別離』『セールスマン』
出演 ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、リカルド・ダリン
2018年/スペイン・フランス・イタリア/スペイン語/133分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/英題:EVERYBODY KNOWS/日本語字幕:原田りえ
配給 ロングライド

★第71回カンヌ国際映画祭オープニング作品
★第43回トロント国際映画祭正式出品

高橋ユキ
1974年福岡県生まれ。2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。殺人等の刑事事件を中心に裁判傍聴記録を雑誌、書籍等に発表。現在はフリーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。著書に『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか。
Twitterアカウント @tk84yuki
ルポ「つけびの村」note https://note.mu/tk84yuki/n/n264862a0e6f6

中瀬ゆかり
1964年和歌山県生まれ。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部長。『5時に夢中!』(TOKYO MX)には番組開始初期からレギュラー出演。他にも、『とくダネ!』(フジテレビ)などにコメンテーターとして出演している。

文=白神じゅりこ

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