■「総統」という概念を解体する
ーーもっとも驚いたのは、「『総統』という概念の解体」というコンセプトでした。外部の哲学者や研究者なら許されるでしょうけれど、いかに民主国家で表現の自由が認められているとはいえ、政権内部の人間であり総統本人に近い者が表明していたわけですから。
林「総統」を法的な解釈とは異なる概念として再定義し、提示できるのであれば、私には、国や民族を問わず、世界のどこででも通用可能なものとして使用、拡散できればという野心があります。ただし、この作品は、いろいろな側面で議論可能だからこそ難しいという部分があり、あくまでゴールではなく中間点として、今できる最大の努力の結果がここなのだと思っています。「総統」という定義をどの範囲まで拡張するか、できるかはすごく難しい。
ーー「どの範囲」とは?
林 空間、建築、ランドスケープ、人物、肖像等々。そのため、当初は、『The President』というシンプルなタイトルでした。しかし、それだとドキュメンタリーの匂いが強くなってしまう。私がやっていることはドキュメンタリーのように見えてドキュメンタリーではありません。そこに、キュレーターの許戊德が『写真ー記録ー劇場』という枠組みを提案してくれました。『The President』という言葉が物語る範囲を狭めてしまう点で違和感はあったのですが、そう設定することによって、私自身が本来考え、写真で語ろうとしているものとは違うスパークが生まれるのではないかとも思い、一緒に展示を作りました。