「ひえ~、ママ~!」マザコン映画の最高峰『ストラングラー 猟奇マザコン絞殺魔』を徹底解説!

――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

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『ストラングラー 猟奇マザコン絞殺魔』

1984年・ユーゴスラビア

監督/スロボダン・シアン

脚本/スロボダン・シアン、ネボイシャ・パイキッチ

出演/タシュコ・ナチッチ、スルジャン・シャペルほか

 日本では珍しいユーゴスラビア映画で、ヒッチコックの『サイコ』(60年)に影響を受けたホラー・コメディの知られざる傑作。作品の製作時にバルカン半島を制圧していたユーゴスラビア社会主義連邦共和国は2003年に消滅している。そんな事情で権利取得がメンドーになっているのか、現在はDVDもブルーレイディスクも発売されていない。レンタルビデオ時代にソニーから発売されていたVHSビデオは貴重だ。

 舞台はユーゴスラビアの首都ベオグラード。赤いカーネーション売りの独身中年ペラは、身長190センチ、体重120キロの巨漢だ。ペラは2人暮らしの母親に、48歳にもなって入浴時に体を洗われる一方、花の売り上げが少ないと棒で叩かれ折檻される。心が歪んでいったペラは、カーネーションを拒否する女性を22人(プラス1人は男)も絞め殺した

 3夜連続で女性の絞殺死体が発見され、テレビのニュースでは白目を剥いて舌を出している被害女性の死に顔がお茶の間に映し出される。それを見て「ブーッ」と飲んでいたビールを噴き出した男は、ロック歌手のコピツル(演者はユーゴスラビアの人気歌手スルジャン・シャペル)。幼少時に母親を亡くしたコピツルは、医師の父親が再婚した若いナースがエロすぎて懐けず女嫌いになっていた。コピツルは犯人をリスペクトし、『ベオグラードの絞殺魔』という曲を書いて大ヒットさせる。

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画像は「IMDb」より

 曲のプロモーションビデオは、夜の路上でゲロを吐く泥酔女の首をコピツル本人が絞め殺すという映像。これをテレビで見たペラは自分が元ネタと気付かずに共感を覚える。ラジオ番組に出演したコピツルに局アナのソフィアが「あなたも女性の首を絞めてみたいですか?」と、ふざけてコピツルの両手を自分の首に。するとコルピツはソフィアの首を本気で締め始め、放送は中断する。ソフィアは「あなた変よ……」とコピツルに嫌悪感を抱く。

 犯人を挙げられなくてノイローゼ気味の老警部は、私服の婦人警官(1人は女装の男性警官)をコピツルのコンサート会場に張り込ませる。女装警官はペラに声を掛けられ「カーネーションは大嫌いよ!」。コンサート終了後、会場の周辺を張っていた女装警官は「キュッキュッキュッ」ともろ『サイコ』の曲が流れる中、背後からペラに首を絞められる。カツラが外れた警官の顔を見たペラは「ひえ~、ママ~!」と驚くが、そのまま絞め殺す。自分の作戦で部下を失った警部が自宅で首を吊ろうとすると、飼い猫が駆け寄り「にゃあ、にゃあ!」(字幕「あなたが死んだら誰が部下の仇をとるんです?」)。気を取り直した警部のリベンジが始まる。

 翌朝ペラはテレビで昨夜のコンサート映像を見て興奮し、「聞こえないよ」と讃美歌を歌う母親の口を手で塞いで窒息死。「この中から次の犠牲者が出るかもしれないのに、女性たちはカーネーションを買ってお祭り騒ぎです」と皮肉を言うソフィアにカチンときたペラは、局に電話をかけ「テレビで俺のカーネーションの悪口を言うな」。

 その夜コピツルは自分を批判するソフィアの首を絞めようと、帰宅する彼女の後をつける。またその後を、コピツルが絞殺魔と睨む警部が尾行する。コピツルが背後からソフィアに迫った瞬間、暗闇から「キュッキュッキュッ」と出現したペラが彼女の首を絞める。ソフィアはペラの左耳に噛み付き「ブチッ!」と食い千切る。「ママ~!」と泣き喚いて遁走したペラが翌日にニュースを見ると、「これが絞殺魔の耳です」と自分の耳が映し出され、コピツルが「奴は変質者だ」とインタビューに答えている。またもカチンとくるペラ。

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画像は「IMDb」より

 意気揚々と帰宅した警部だが、証拠品の耳を飼い猫に食べられてしまい発狂。警部が衝動的に猫を絞め殺した時、オカルト的な共時性が発生する。同時刻にコピツルは恋仲になったソフィアをセックス中に絞め殺し、ペラの脳内に「耳を取り返してやるよ」という母親の声が聞こえる。ペラは化粧をして母親の服とウィッグを着用(まさに『サイコ』)、「息子は変質者じゃない」とコピツルを追いかけ回す。

 廃屋の上層階で決闘が始まり、「耳を返せ!」とコピツルの耳を摘まむペラ。コピツルも負けじと、天井から垂れ下がっていたワイヤーでペラの首を絞める。「ブチッ!」と左耳を千切られたコピツルが思わずペラを蹴飛ばす。ペラは首にワイヤーが絡まったまま底の抜けた床から下へ落ちていき「ガクン!」と中空で停止、ブラーンと絞首刑が完成する。

 ソフィアはペラが殺したことになり、警部は精神病院へ。片耳を失ったコピツルはクラシックの大作曲家に転身し、ベオグラード交響楽団の指揮者に上り詰める。父親は急死してセクシー継母はコピツル夫人に収まり2人で幸せに暮らしたとさ(汗)。

 監督のスロボダン・シアンは『歌っているのはだれ?』(80年)で多くの国際映画賞を獲得していて、ホラー映画ブームに乗じて大量輸入された同時期の低予算作品とは演出力で一線を画す。思想や政治体制が違う馴染み薄い国の映画って、ともすれば難解で分かりにくいものだが、シアン監督はナレーションで行間を丁寧に説明し、無声映画の字幕手法を効果的に使う。それらの言葉もウィットが効いていて、日本人にもすんなり入ってくる。花言葉が「母への愛」である赤いカーネーションをギミックに、母親境遇の違う2人の絞殺魔を対決させる作劇も上手い。ぜひソフト化して欲しい逸品だ。

文=天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
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