【必読】放水車の絵を「砲撃計画図」とでっち上げられ……スパイ罪で服役の日本人釈放で思い出される「毛沢東暗殺未遂『冤罪』事件」(後編)

中国当局により「砲撃計画図」と主張された放水実験の絵

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 7月1日、中国で、スパイ罪で服役していた50代の邦人男性が釈放されたが、今から70年前、天安門で毛沢東暗殺計画を企てたとして中国当局に拘束、処刑された日本人・山口隆一。

 当時といえば、国際社会は朝鮮戦争という動乱の真っただ中。さらに、日本は中華人民共和国とは断交状態にあったこともあり、政府による外交ルートを通じての救済も困難だったものとみられる。当時の日本の新聞も、わずか数行で彼の死を伝えるのみだった。

 一方、彼の潔白を一貫して主張してきたのは、山口の妻・芙美だ。彼女は帰国後、日本の新聞や週刊誌に何度も登場し、夫の名誉回復に努めている。

 そこで、芙美によって語られた、事件に巻き込まれるまでの山口の足跡をたどってみよう。

 1905年、三井物産社員の山口精一の長男として東京に生まれた山口と中国との関わりは、幼少期に始まっている。香港赴任となった父に家族で帯同し、4年間を過ごしているのだ。

 26年には早稲田大学文学部に入学するも、中退。その後は、京都帝国大学の考古学研究室の研究生となり、中国美術を研究した。

 31年には元陸軍中将で衆議院議員を務め、のちにA級戦犯として投獄されることとなる四王天延氏の長女・芙美と結婚。1男3女をもうけている。

 33年から4年ほどは宮内省に勤務していたが、日中戦争が勃発してまもなくの38年には、日本の傀儡だった華北政務委員会の海事機関、華北航業総公会の社員として、日本の統治下にあった青島に家族を連れて赴任している。庶務主任、船舶科長を経て、最後には北京事務所の代表に昇格。45年、終戦を北京で迎えた山口は、多くの邦人が日本へ引き揚げるなか、家族とともに同地に残留することを決意する。

 その理由について、妻の芙美はのちに「山口は昔から中国が好きで、(中略)生きられるだけこの土地で生きて行こう。そんな気持ちでしたから」(『サンデー毎日』1953年1月11日号)と語っている。

 その後、アメリカ諜報機関であり、CIAの前身となる戦略情報局(OSS)の依頼で、中国の世論や対米感情、経済情勢などを調査する仕事も請け負うようになる。この経歴が、スパイの嫌疑がかけられることになる、ひとつの大きな理由となってしまったわけである。

 46年春からは、中華民国外交部の国際問題研究所に研究員として勤務していたが、内戦が激化して共産党軍が北京へ接近すると、48年11月に研究所は解散となった。

 しかし、山口はここでも北京に留まった。その後、共犯者として逮捕されることとなるアンリ・ヴェッチが経営する北京市内のフランス語書店に勤務していたが、49年10月に中華人民共和国が建国されると、同国との貿易に携わるようになり、東京の貿易会社「日洲産業株式会社」の北京代理人に就任した。

 そうしたなか、山口が獲得した契約のひとつが、「北京市消防局への日本製消防車二台納入」だった。そして山口は、この消防車の放水性能実験を行い、それについて報告する手紙が「砲撃計画の図」と見なされたとのだ。

 ちなみに、北京在住の技師、山本市朗氏が80年に上梓した著書『北京三十五年』(岩波書店)でも、50年5月から6月の間に中国国産消防車と日本製消防車の性能比較のため、天安門前で放水実験が二度行われたことがあったと記されているのだ。

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