柄本明や村上淳にびっくり? 小川未祐、とにかく破天荒な映画『脳天パラダイス』の撮影秘話を振り返る

『闇のカーニバル』『ロビンソンの庭』などで知られる山本政志監督の最新長編映画『脳天パラダイス』が11月20日より公開される。キャッチフレーズはズバリ「観たら、キマる」。「とにかく、理屈抜きにブッ飛んだ映画を撮ろう」という山本監督の思いを具現化し、セックス、ワイヤーアクション、怪獣、ミュージカル、オカルトなど、あらゆる映画要素を詰め込んで作られた異色のヒューマンコメディだ。

 今年のローザンヌ映画祭(スイス)のオープニング上映作品にも選出されている同作は高台にある一軒の大豪邸を舞台に、破産して離散寸前の一家が、引越しの最中、娘の何気ないSNSへの書き込みから、予想もつかない騒動に巻き込まれる様をコミカルに描く。主人公の昭子役に南果歩、昭子の元夫・修次役にいとうせいこう、謎のホームレス役に柄本明が出演するほか、玄理、村上淳、鳳ルミ、古田新太ら豪華キャストが脇を固める。

 離散一家の長女・あかね役を演じるのは、19歳の新鋭女優・小川未祐だ。オーディションや選考ワークショップを経て抜擢された彼女は、劇中、目の覚めるようなダンスシーンも披露する。彼女に本作の見所や、撮影の裏話などを語ってもらった。


ーー映画を見たのですが、かなりハチャメチャな展開で驚きました。小川さんはこの映画の脚本を最初に読んだ時、どんな印象を持ったのですか?

小川:脚本の段階からすごく破天荒で、書かれていることがどう映像化されていくのか、想像もつきませんでした。言葉の意味はわかるけど、イメージが沸かないというか、体に落とし込めない感じがあったんです。現場に行って、セットや用意されたものを見て、こういうことなんだって気付いたりしました。

ーーこういう破天荒なスタイルの作品にはもともと興味があったんですか?

小川:いや、あまりこういう作品は見てこなかったです(笑)。でも、実際に自分がそこに飛び込んでみると楽しくて。

ーー普段はどういう映画を見ることが多いんですか?

小川:普段はしっとりした作品を見ることが多いんです。イ・ チャンドンの『オアシス』とか、ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』、『ミツバチのささやき』とか。だから今回のような作品と接することでこんな世界もあるんだなって、新しい発見がたくさんありました。

ーー父役がいとうせいこうさん。母役が南果歩さん。撮影中、ベテランのお二人と現場で話す機会はありましたか。

小川:最初は緊張していたんです。でも、果歩さんは会ってみるとすごく自由な方で、気さく。話してみると、一気に緊張感が解けて、プライベートの話題まで、色々お話することができました。せいこうさんも本をお書きになったりするからかもしれませんが、文学的な雰囲気を纏っていて素敵な方でした。現場でも「今日道混んでた?」とかフランクに話しかけてくれて、嬉しかったです。

 

ーー柄本明さんはかなりインパクトのある役柄を演じていました。

小川:柄本さんの演じる役は劇中、特別な存在なんです。それもあってか、(撮影中オーラを纏っていて)近づきがたい雰囲気もあったんですけど、柄本さんが死んで生き返るシーンを撮っていた時の合間に、寝転んだまま、ぽろっていきなり素敵な言葉をおっしゃって、それが印象的でした。「叫んだり暴れたり、すごく恥ずかしいことだけど、それを恥ずかしいことだとわかりながらも演じることが大事なんだ」って誰に対して言っているわけでもなく、空を見上げながら突然言うんです。思わず、役者として、これ覚えておかなきゃって思いました。しかも柄本さんの芝居はやっぱり現場でもちょっと神がかっていて、芝居が終わるたびにみんな拍手でした。

ーー小川さん演じるあかねがSNSに投稿したメッセージがきっかけで、家にいろんな人がやってきて、庭先で人や屋台が入り乱れてパーティになる。あのシーンには古田新太さんらが登場して、一気にカオスな雰囲気になっていきます。現場の様子はどんな感じだったんですか。

小川:出演者の人数も多かったし、世代の違ういろんなタイプの人がいて、芝居以外の面でもすごく刺激的でした。特に村上淳さんは本当に面白くて、シーン的には出演シーンはそんなにないんですけど、現場でいろんな人に質問責めしていたり、本当によくお話をする方で、楽しかったです。撮影中、なんども噛んだりしていて、噛まないように頑張ってセリフを言っているのもなんだか面白くて。みんなにいじられながらもそれを楽しんでいるような人、こうやって愛されてきたんだろうなって、撮影中感じました。

ーークライマックスのシーンはたくさんの人が入り乱れて、それぞれの背景が交錯する面白いシーンの連続でした。でも、演じる方は大変だったのでは。

小川:状況を把握するのが難しかったです(笑)。撮影が進むにつれ、周りも収集がつかなくなっていく感じがありましたし。わたしもやりたい放題な展開の中で、キャラクターをどう動かしていくか常に考えながらの撮影でした。でも、血がバーって吹き出るシーンの撮影後はみんなドロドロになっていたり、大麻をばら巻くとか、見たこともないようなシーンの連続。楽しかったです。

ーー撮影でほかに苦労した点はありましたか。

小川:あの大豪邸に住んでいる娘という自分の役に説得力を持たせるのが難しかったです。自分でもあそこで生活しているイメージが最初なかなか湧かなかったんです。でも、通ううちに場所には慣れていきました。

 

ーー劇中、ダンスを踊るシーンもありました。そこでの小川さんのダンスがキレキレで、びっくりしました。

小川:ダンスは小さい頃からずっとやっていたんです。演技よりダンスの方がキャリアが長いくらいです(笑)。小さい頃はバレエをやっていましたし、その後もヒップホップとか、ジャズダンスとかハウスとか、色々なダンスをやりました。高校は通信制だったんですけど、全てをダンスに捧げていたといってもいいくらい。高2の時にお芝居と出会って、そこからお芝居にも力を入れるようになったんです。

ーー撮影に当たってダンスの指導などはあったのですか。

小川:リハーサルは結構やりました。一緒に踊る共演者の中には、ダンスをやったことがない方もいらっしゃったので、何度もリハーサルをやったりしたんです。 

ーー出来上がった映画を見てどんな感想を持ちましたか?

小川:いろんなものが詰まって、いろんな要素が入っているけど、結果、最後は楽しかったって思えるものになっていて、この映画の良さがそこにあるなって。面白かったって胸を張って言える映画だと思います。今、コロナ禍で、たいへんな状況になってしまったんですけど、そんな中も、スカッとできるものっていう感じで気軽に手にとってもらえるような存在の映画になれば嬉しいなって思います。


ーーこの映画を経て、今後はどんな作品に出たいと考えているんですか?

小川:明確にこういうテイストの映画をやりたいというのはないです。なんでもやりたいって思っているので。でも、見てくださる人に楽しんでもらえるものに挑戦していきたいって思います。映画の力を信じているし、自分もそれに救われてきたので、その思いを忘れず、いろんな仕事に挑戦していきたいです。河瀨直美監督の映画なども好きなので、いつか自分の好きな監督さんの作品にも出演できれば嬉しいです。 

映画『脳天パラダイス』11月20日全国ロードショー


<ストーリー>東京郊外、高台にある一軒の大豪邸。あとは引越し業者のトラックに荷物を積み込むだけとなった部屋を、やさぐれた表情で見わたす笹谷修次。家⻑でありながら、この家を手放す原因を作った張本人である。引きこもり気味の息子・ゆうたは淡々と現実を受け止めている。一方、生意気盛りの娘・あかねは不甲斐ない父親にイラつきながら、ヤケクソ気分で Twitter に「今日、パーティをしましょう。誰でも来てください。」と地図付きツイート。そのままフテ寝してしまう。投稿がリツイートされまくり、瞬く間に拡散している状況を示す通知が鳴り響いていることも知らずに……。数年前、恋人を作って家を出たはずの自由奔放な元妻・昭子がやってきた。パーティーのツイッターをみてやってきたのだ。ゆうたは、久しぶりの母との再会を喜ぶが、修次やあかねにとっては招かれざる客でしかない。借金まみれになり、一家離散目前の笹谷家にツイッターをみて、次々にパーティー客がやってくる。インド人のゲイカップル、やる気のない運送業者、手癖の悪いあかねの友人、台湾から来た観光客の親子、酔っ払いの OL、恋人を探しているイラン人、謎のホームレス老人…。そんな中、来客を頑なに追い返そうと一人奮闘する修次だったが、珍客はどんどん増え続ける。しだいに豪邸は、ドンチャン騒ぎを超えた、狂喜乱舞の縁日の境内状態になっていく。笹谷一家の引越しは!? いやいや、もうそれどころじゃない! 客たちによって一家の運命はめくるめく奇々怪々と狂喜乱舞へと導かれていく……!
これは現実か、それとも幻覚か、果たして彼らの行く末は!? もう誰も逃げられない。『脳天パラダイス』への扉が今、開いてしまったのだ!

<出演>
南果歩 いとうせいこう 田本清嵐 小川未祐 玄理 村上淳 古田新太 柄本明
<監督>
山本政志
企画:シネマインパクト、C・C・P 協賛:高見庭園
配給:TOCANA
製作協力:UNIVA Guangzhou Trading 製作:パンクチュアルカルチャー 大江戸美術
(C)2020 Continental Circus Pictures

※脳天パラダイス公式HPはこちら

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文・聞き手=名鹿祥史、写真=田口るり子、文=編集部

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