「この世界は“量子ミラー”のゲーム」現実の根底は何も存在しない“無”の可能性! 最新理論で解説


■「私たちはイメージに浮かぶ幻影にほかならない」

 有名な量子力学の思考実験に「シュレーディンガーの猫」があるが、それによれば箱の中の猫が生きているか死んでいるのかは、我々が箱を開けて“観察”した時点で決定されるのだと説明されている。“観察”するまでは箱の中の猫は生きていれば死んでもいるという“量子的重ね合わせ”の状態にあるというのである。

 ロヴェッリ氏の観点ではこの“観察”によって、猫と観察者の間に“相関性”が築かれたという解釈になる。関係が築かれる以前の猫は量子的重ね合わせの状態にあるというよりも、そもそも存在していないに等しいのである。

 ロヴェッリ氏の相関的世界観においては、この世のすべてを見渡す“神の目”は存在しないことになり、具体的に我々が知覚しているもののみがその関係性の狭間の中で物質ではなく“特性”として存在していることになる。

 そして関係性を築けるものは観察者だけではない。たとえばお気に入りの本は置かれたテーブルと関係性を築いており、テーブルは床と関係している。こうして幾重にも織り重なった関係性の中で、特定の本が本として存在しているのである。

「The Conversation」の記事より


 ロヴェッリ氏によれば世界は複雑に絡み合った網の目のようなものであり、物体は独立した独自の存在ではなく、“量子ミラー”の無限の反射で浮かび上がった“特性”である。さらにこの“網目”の根底にある我々の現実を構成する独立した“形而上学的”な物質は存在しないかもしれないのだ。

私たちはイメージに浮かぶ幻影にほかなりません。私たち自身を含む現実は、薄くて壊れやすいベールに過ぎません。そのベールの向こうには何もありません」(カルロ・ロヴェッリ氏)

 この世界と人生が“うたかたの夢”のようなものだととらえることはある意味では虚しく感じられるかもしれないが、そうであるからこそ自分を縛る“制約”など何もないのだと考えてみればまた違った世界観と人生観にもなるだろう。ロヴェッリ氏の相関的世界観をポジティブにとらえてみてもよさそうだ。

参考:「Singularity University」、「The Conversation」ほか

文=仲田しんじ

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