「神の怒り」で自然災害は起きる!? 祭りを観光化、人身御供を止めたら1100人以上が死亡… インドネシアの怖すぎる実例を解説!
「神の怒りで火山は本当に噴火するのか?」誰もがそのような疑問を持たざるを得ない出来事が、半世紀以上前にインドネシア・バリ島で起きた。それは1963年、バリ最高峰の活火山「アグン山」が世界最大規模の大噴火を起こした時の出来事であり、当時のスカルノ大統領も関係している。バリ島を頻繁に訪れ、現地の事情を良く知る筆者が、この不思議な話を紹介しよう。
■アグン山とは?
バリ島最高峰のアグン山(Gunung Agung)は標高3014mの活火山で、富士山に近い山容を誇る。ちょうど富士山が日本人にとって山岳信仰の象徴的存在であるのと同様に、というかそれ以上に、バリ・ヒンドゥーの信仰とともにアニミズムや山岳信仰が盛んなバリ島では、「素晴らしい山」を意味するアグン山が現在でも最高の信仰対象であり続けている。
大祭の中心地でバリ島ヒンドゥーの総本山であるブサキ寺院は、その山の中腹にあり、シヴァ・ヴィシュヌ・ブラフマのヒンドゥー三大神を中心に祀られている。そして、現在でもバリ島民にとって文字通りの「世界の中心」であり続けている。
■神聖なるバリ島の大祭を観光化…!
ブサキ寺院では、10年に一度「パンチャ・ワリクラマ」という大祭が行われる。その大祭が9回ほど繰り返された後、「エカ・ダサ・ルードラ」(Eka Dasa Rudra、ルドラ)と呼ばれる大祭が執り行われる。「百年に一度の大祭」といわれるが、正確にはちょうど100年ごとに行われるのではなく、高位の僧侶たちによって慎重に最良の日取りが選ばれる。ルドラとは本来、インド神話に登場する荒ぶる暴風神だが、ヒンドゥー教を信仰するバリ人たちにとっても信仰の対象で、災害鎮静のために大祭を行う必要があるという。
しかし1963年、インドネシアのスカルノ大統領は、連綿と続く慣例を無視して100年が経たないにもかかわらず観光目的で「エカ・ダサ・ルードラ」を執り行うことにした。当時のインドネシアは、オランダからの独立後16年間で経済が最悪の状態にあり、観光によって外貨を稼ぐためバリ島に目をつけたようだ。前述の通り、このようなバリ島ヒンドゥー教で最高に重要な大祭の日程は、本来であれば高位の僧侶が決めるものだった。そのため、僧侶たちは非常に怒って強く反対したという。
■世界的規模の大噴火が発生!
こうして「エカ・ダサ・ルードラ」の一連の式典が、時期尚早との声がある中、1962年10月10日から翌年4月20日まで開催されることとなり、クライマックスである最大の儀式は3月8日に設定された。ところが、そのクライマックスの前月、1963年2月18日に「神の山」グヌン・アグンは噴火活動を開始し、2月24日からは溶岩流も発生した。そして、約1カ月後の3月17日に大噴火を起こした。大噴火の3日後の3月20日は、善である「ダルマ」が悪の「アダルマ」に勝利したことを記念した祝日「ガルンガンの祭日」の初日だった。
「エカ・ダサ・ルードラ」の祭儀の真っ最中に起きたこの大噴火により、バリ島東部全体が荒廃し、大祭は中止となり、人々は貧困と飢餓に苦しみ、疫病も蔓延した。バリ島民の多くは、大祭の期日を勝手に変えて、神聖な祭を観光イベントに変えてしまったことによりアグン山の神が怒ったものと解釈した。その後、噴火は翌年1964年1月27日にやっと収まったが、死者1,148名、負傷者296名という甚大な被害をもたらした。火砕流で亡くなった人々が多く、村全体が埋もれたところもあった。
このアグン山の噴火は、歴史上知られているどの噴火よりも大規模で壊滅的なもので、世界最大規模の噴火の一つといわれる。噴火の規模を示すVEI(火山爆発指数)は5であり、1707年の富士山の宝永大噴火に匹敵する規模だった。この噴火により、北半球の平均気温は0.5度上昇したという。
ところで、この1963年の大祭では初めて動物が供儀として用いられた。その前の19世紀に行われた大祭までは人身御供が行われ、初潮を迎える前の少女が犠牲となっていた。この変更が神の怒りを買った理由の一つではないかと指摘する声もあるようだ。
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