『M-1』を攻略するための3つの要素とは? 日本一お笑いの詳細を描いた『ワラグル』著者×お笑い評論家が語る!

『ワラグル』(小学館)

 『22年目の告白-私が殺人犯です-』『AI崩壊』などの作品で知られる作家の浜口倫太郎氏の最新作『ワラグル』(小学館)が7月14日に刊行された。

 この作品の舞台はお笑い業界。『KING OF MANZAI(KOM)』という漫才の大会に挑む若手芸人たちの苦闘を描いている。

 浜口氏はもともと大阪で放送作家として活動しており、数々の番組を手がけてきた。その経験を生かしたリアリティのある描写が楽しめる作品となっている。

『ワラグル』の刊行を記念して、浜口氏とお笑い評論家のラリー遠田の対談が行われた。ラリーは浜口氏とは以前から交流があり、普段からお笑い談義をしているという。

 第2回では、作品内にも登場する『M-1』の攻略法などについて語り合った。
第1回はこちら

ラリー:『ワラグル』の中では、『M-1グランプリ』のような漫才の大会で勝つための戦略論が語られる場面もあります。そういうのも結構細かいところまでリアルに書かれていますよね。たしかに、こういう話ってお笑い界隈でよく言われてるよな、みたいな。

浜口:少年が達人から空手を教わる『ベスト・キッド』っていう映画があるじゃないですか。この小説の中でやりたかったのは、あれで全く違う教え方したやつ同士が戦ったらどうなるんやろう、っていうことだったんです。それが漫才だったらできるなと思って。芸人によって方法論が全く違うから。

ラリー:そこで「漫才ではニンを出すのが大事」っていう話が出てきますけど、あれって最近になってお笑い界でよく使われるようになった言葉ですよね。

浜口:そうなんですよ。「ニン」の語源が、僕も調べたんですけどちょっとわからなくて。僕の印象では、ブラックマヨネーズが『M-1』で優勝したときぐらいから言われ出したと思うんですよ。ニンというのは「その人らしさ、個性」のような意味です。

ラリー:それが大事だということは、芸人だったらみんな理解はしてるじゃないですか。でも、実際はそれを見つけるのが難しかったりするんですよね。

浜口:そうなんですよ、むちゃくちゃ難しくて、なかなか見つかるもんじゃないんですけど、最近の若い芸人はすぐに見つけたりしているので、大したもんだなと思います。

ラリー:自分ではわからないことが多いんですよね。プライドもあるし、自分自身はなかなか客観的に見られないから気付きにくい。

浜口:やりたいことと自分に向いていることは違ったりしますからね。狩野英孝さんが「MCをやりたい」って言っていたりとか。でも、芸人も結構こだわりが強かったりするので、それをなかなか変えられない。客観的に見て「そっちの漫才じゃない方がいいのにな、ニンを消しちゃってるな」って思ったりすることもあります。

ラリー:漫才の大会で勝つためにはニンが大事っていうのがあって、その一方で「システムが大事」っていう話も出てくるじゃないですか。笑いが取れるシステム、型のようなものを新しく作ると『M-1』で勝てる、っていう定説もありますよね。

 その両方の理論があるんですよね。「ニンの理論」と「システムの理論」があって、『M-1』の決勝ではそれがせめぎ合う。でも、もう一個だけ絶対的な原則があって、それが「笑いの量」なんですよね。結局、ニンでもシステムでもいいんだけど、一番ウケたやつが勝つ、っていう。そういう最先端のお笑い理論みたいなものが、この作品の中にはそのまま出てくるじゃないですか。そういうところも面白いです。

浜口:そうですね、たぶんお笑い好きだったら何となく知ってる話なんですけど、あんまりちゃんと書いている本もないので、こういうものに乗せて書いたら楽しいんじゃないかな、みたいな感じで使いました。

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