同時に5軒の事故物件を借り、5年で死ぬ男・松原タニシ! 本物の怪談を求めて恐怖体験…村田らむが新刊『死る旅』インタビュー

 

「一人旅は怖いですよね。ワンミスでゲームオーバーですから(笑)」

『異界探訪記 恐い旅』にはタニシさんが大阪の山を取材していたところ、イノシシらしき獣と遭遇してしまい、川を背に延々と隠れ続ける話が印象的だった。新刊でも、命の危険はあったのだろうか?

「岡山にある古代山城『鬼ノ城』に行った時はかなり怖かったですね」

『鬼ノ城』は桃太郎伝説のルーツという説もある。

「基本的に徒歩で行く場所じゃなかったんです。雨が降る中何時間も歩いて心が折れてしまったんですね。そんな時『降りると下の道に出られます』という看板を見つけました。これは行くしかない、と進んだんですが……ほぼ崖でした」

 タニシさんは、深夜にスマホと懐中電灯と傘を持ったまま崖を降りた。崖は雨でツルツル滑った。さすがに配信は続けられないとスマホはポケットにしまったそうだ。

 踏み外したら死ぬ崖をなんとか降り、帰路についたという。

 そう言えばタニシさんと一緒に、知多半島の中之院、通称たぬき寺に行った時も死にかけた。

その時撮影した軍人像

 3月の寒い山道を4時間以上歩き、目的通り軍人像を写真に撮ることができたのは良かったが、帰りのバスが来るのは何時間も後だった。ジッとしていたら、凍死してしまいそうだったから、ひたすら歩いて帰還した。

 人が歩いていると思っていないから、トラックがスピードを落とさずにビュンビュン通り過ぎていく。

 2人とも一言も喋らず、海岸線の道をひたすらテクテクと歩いたのを覚えている。

「今でも、つらいことがあるとあの時のことを思い出しますね。やっぱり人間つらい経験があると強くなるのかもしれませんね(笑)」

 とタニシさんは語った。
 もちろんタニシさんは、こういうリアルな命からがらの話だけではなく、いわゆる霊的に怖い話も集めている。だが、それは飽くまでオリジナルのエピソードにこだわりたいと思っているという。

「すでに世にある怪談を確かめに行くだけの旅は嫌なんですね。その怪談って誰かが意図を持って広めたものも多いわけで、それって言わば『本物じゃない胡散臭い怪談』なんです。それを広げるのに手を貸すのもイヤです。僕は、現場に行って自分だけのオリジナルな話を見つけたいと思っています」

 最後に、もしトカナで自由に経費が出るなら(たぶん出ないけど)、どんな旅がしたいですか? と伺ってみた。

「そう言えば鹿児島県の『熊襲の穴』という場所に行ったんです」

 この場所は、女装したヤマトタケルノミコトがカワカミタケルを殺害した場所だと言われている。現在は誰が描いたか派手派手な現代アートで彩られているが、とても古い洞窟だ。

「後から知ったんですが、この場所って手塚治虫の『火の鳥 ヤマト編』に登場していたんです!! それを知って、ちょっと興奮してしまいました。『火の鳥』に登場した場所をめぐる旅、とか面白そうですよね? 阿蘇山に登って『ここに火の鳥いたな~』とか思いたいです(笑)」

 手塚治虫の漫画には具体的な場所が出てくる作品も多いから楽しそうだ。

 僕は『三つ目がとおる』に登場した場所を巡る旅がしてみたい!! トカナさん、いかがでしょうか?

 そんな松原タニシさんの『死る旅』。ダークツーリズムが好きな人には是非、読んで欲しい一冊だ。

死る旅(二見書房)松原タニシ

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文=村田らむ

ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター
1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)、『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)など。

Twitter:@rumrumrumrum

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