「生まれてきたことは悪」「人類絶滅すべし」反出生主義が世界中で台頭! 哲学者べネターの理論が21世紀の新常識へ!

 環境活動家らの中には、気候変と将来への不安を理由に子ども生まない選択をする者もいるが、反出生主義の流行はこうした時代感覚ともリンクしているのかもしれない。ただ、ベネターが主張する反出生主義と環境活動家らの主張は根本的に異なるものだ。

 環境活動家らは、環境問題が全て解決し、持続可能な世界が実現されれば、いくらでも子どもを産むと思われるが、反出生主義はどんな世界であっても“絶滅”することが倫理的な選択だとする。

 出産を否定する反出生主義の最終ゴールは“絶滅”である。そして、人間だけでなく、快苦を感じる能力がある生命全てが“段階的に”絶滅すべきだとする。即座の絶滅ではなく、段階的な絶滅という点がポイントだ。決して世界中に核の雨を降らせて無理心中しようと提案しているわけではない。子どもを産むことを止めて、いま残っている“生まれてしまった生命”が自然に死んでいけば、自ずと絶滅は完了する。

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画像は「getty images」より

 ところで、反出生主義の根本動機は「苦の総量を減らす」という功利主義だが、もし人類が他の生物に先駆けて絶滅してしまったら、苦の総量は増えてしまうかもしれない。なぜなら、苦痛を感じる能力がある動物たちが今以上に繁栄する恐れがあるからだ。

 オーストラリアの哲学者ピーター・シンガーは、動物実験における“種差別”を暴く過程で、生後6カ月の赤ん坊と、ネズミ、猿、モルモット、犬、豚、ウサギは、知性の程度と苦痛を感じる能力という点で違いがないとした。苦痛を感じる動物が増えてしまうことは、人間が増えることと変わらないのだ。

 すると、反出生主義者はそうした生物の絶滅を手助けした後でないと、絶滅することができない。これはかなり困難な道のりだ。もちろん、ベネターは段階的な絶滅を可能なものとして提示しているわけではなく、反出生主義の論理的帰結として提示しているに過ぎないのだが。

 とはいえ、反出生主義は、常識的に良いこととされる出産や人類の繁栄、持続可能な社会といったものの妥当性を問い直す1つのきっかけになるだろう。そして、その点においてベネターの議論は出色の出来だ。子どもを産んでしまった人もまだ産んでいない人も、子ども産みたい人も、産みたくない人も、一度『生まれてこないほうが良かった:存在してしまうことの害悪)』(すずさわ書店)を手に取ってみては如何だろうか?

参考:「The Guardian」、ほか

TOCANA編集部

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