“暗すぎて”お蔵入りしたリアルすぎる「痴呆老人介護」映画『朽ちた手押し車』が超名作!

――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男が、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

朽ちた手押し車

1984年製作(2014年公
監督/島宏
脚本/島宏、スーザン・リー
出演/三國連太郎、田村高廣、長山藍子、誠直也、初井言榮ほか

 『釣りバカ日誌』シリーズのスーさん(鈴木社長)役、または佐藤浩市の実父でお馴染みの大俳優・三國連太郎の180本を超える出演作の中で唯一公開されなかった作品が、30年の時を経てようやく陽の目を見た。作品のテーマは「痴呆老人介護」と「尊厳死」。

 監督は、現議員・三原じゅん子の濡れ場で話題になった『嵯峨野の宿』(87年)の島宏。脚本は島監督と共同執筆で、「にっかつ70周年記念応募シナリオ」入選作『乳首にピアスをした女』(83年)でデビューしたスーザン・リー。経歴がこの2作品しか残されていない謎の外国人脚本家だ。物語はクソリアルに進行する。

 冒頭、深夜に起きた老人が「どこだっけなあ……」とトイレの場所を忘れて家の中を歩き回る。老人は台所で放尿を始め、モモヒキから足に伝う尿が床にボタボタ垂れる。そのまま老人は外に出て砂浜で砂遊びに耽っていると、やがて妻が迎えに来る。

 舞台は新潟県糸魚川市親不知。安田源吾(三國連太郎)は、かつて一帯の漁師を仕切るリーダーだったが、現在は痴呆が進行して家族が目を離せない状況。食事中にポロポロと飯をこぼす源吾に女子高生の孫は「汚いなあ、爺ちゃん!」と容赦ない。米粒を拾い源吾の汚れた口元を拭く婆ちゃんは、日本の映画・テレビになくてはならない「婆さん女優」の代表格・初井言榮(撮影時は50歳半ば)。

 源吾は長山藍子(『渡る世間は鬼ばかり』など)扮する嫁・みつに5杯目、6杯目とご飯のオカワリを「あ~!」と要求し、断られると仏壇に供えたご飯を手掴みでムシャムシャ。嫁に止められた源吾は裸足で外へ飛び出し、「嫁がメシを食わせてくれんのじゃ~!」と大騒ぎする。そんな時、東京にいた次男・弘(『ファイヤーマン』、『秘密戦隊ゴレンジャー』のアカレンジャーを演じた角刈りの特撮ヒーロー・誠直也)が仕事に馴染めず帰郷する。かつて弘の妻子は源吾の船から落ちて事故死しているため、いまだに弘は父親に対する恨みを引きずっている。

 ある日、婆ちゃんが終末期の病で倒れ、みつの負担が一気に増える。台所で源吾の尿を拭き取るみつに、娘が「また、爺ちゃん!?」と怒気を込めて叫ぶ。みつは「誰だって年取ると、いつかはこうなるがや。オメエ、父ちゃんや母ちゃんがこうなった時、邪険にしたら承知せんと!」。しばらくすると今度は台所が茶色の物体でまみれ、誰もが「わっ」と思いきやヌカ味噌。孫娘は源吾がヌカ漬けの樽を漁っているのを見て激怒するが、婆ちゃんに「母ちゃんには内緒にしておいてくれ」と懇願され、暗い表情で町をうろつく。

 やがて死期を悟った婆ちゃんは、枕元に置いてあった果物ナイフで源吾と心中を図ろうとするが、刺す力もなく失敗する。まもなく入院した婆ちゃんの余命が半年ということを、長男の忠雄(田村高廣)は医師から聞かされる。苦しみながら生かされる母に見兼ねた忠雄は、「楽にしてやりてえ」と医師に安楽死を訴えるが、人道上頑なに拒否される。

 前半の痴呆老人介護問題に尊厳死問題が重なっていく後半、長男・忠雄がキーパーソンとなる。演じる田村高廣は「阪妻(ばんつま)」の愛称で人気を博した歌舞伎界の大スター・阪東妻三郎の長男。『兵隊やくざ』(65年)、『天平の甍』(80年)、『泥の河』(81年)などで様々な賞を受賞し、テレビでも『花神』(77年)などNHK大河ドラマに4作出演、人気時代劇「必殺シリーズ」の『助け人走る』(73年)では主役の殺し屋をカッコよく演じた。

 やがて婆ちゃんはこの世を去る。源吾が浜まで押してきたのか、近所のガキ共が婆ちゃん愛用の手押し車を鉄クズと思い海に放り投げる。波に打たれる錆だらけの手押し車を、ボーッと眺める源吾。そこへ孫娘が歩み寄り、黙って足の砂を丁寧に払い、手を取って歩き出す。救われるイイ場面(泣)。源吾はもう一度、名残惜しそうに手押し車を振り返る。

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