“実話に基づく”SF青春映画『スターフィッシュ』に胸が締め付けられる! エモと怪物が切り拓く新たな地平
公開前から少しずつ話題になっていたSF青春映画『スターフィッシュ』。ヒューマントラストシネマ渋谷で開催された「未体験ゾーンの映画たち2022」で公開されるや否や、たちまちSNSで話題沸騰。3月12日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムで再度封切られ、全国公開に至るという前代未聞の展開を見せている。賛否両論あれど、エモーショナルな本作は観た人の胸に小さな棘を残し、心を締め付ける。SFの新たな地平を切り拓いた必見の作品だ。
■美しい映像とエモい展開と、怪物
「実話に基づく物語」――この言葉から映画は始まる。とはいえ、序盤から現実世界ではあり得ないクリーチャーが世界を占領しており、主人公・オーブリーにも襲い掛かる。
疎遠だった親友・グレイスの葬式に参列していたが、会場の雰囲気に馴染めずその場から飛び出すオーブリー。気持ちの整理がつかぬままグレイスの自宅に不法侵入する。へこんだままの枕や、冷蔵庫の野菜が、ほんの少し前までそこには確かに人間の営みがあったことを物語る。
その翌朝、目を覚ますと街は一面の雪に覆われ、人の姿はなく、怪物たちが街を支配していたのだった。
グレイスの部屋に引きこもっていたオーブリーは、ひょんなことから部屋に隠されたミックステープを発見する。そこには「このミックステープが世界を救う」と書かれていた。
テープには、グレイスの肉声で「世界の事件や大惨事、自然災害にはパターンがあり、繰り返されている」こと、「信号は全部で7つあるが7番目が見つかっていない」こと、そして「すでに発見済みの信号はふたりの思い出の場所に隠してある」ことが吹き込まれていた。世界を救うためには失われた7番目の信号を発見し、繋げる必要があることを示唆していた。
世界を救うヒントを見つけたオーブリーがすぐにテープを探しに行くかというと、そうではない。思い出が詰まったこの部屋から、とても外に出る気分にはなれないから。しかも、外の世界は怪物が闊歩している。オーブリーがようやく行動を起こし始めるのは作品の中盤で、ライフラインが止まり、電気もガスもなく、食べ物が底を尽きはじめてからである。果たして、オーブリーは世界を救うことはできるのだろうか?
■パーソナルで内省的なSF
この物語の着想は監督、A.T.ホワイトが自らの実体験から得たものだった。エンドクレジットに「For Sayoko “Grace” Robinson」とあるように、癌で亡くなった友人に向けた映画である(よって映画の収益は癌研究所に寄付されるとのこと)。大切な人との別れを経験し、喪失感を抱きながら作り上げた、起点はとてもパーソナルな映画なのだ。賛否両論の“否”の意見はおおよそ、その曖昧さに向けたものである。実際、作中ではグレイスの死因もわからないし、なぜ2人が疎遠になってしまったのかもわからない。度々現れる海辺のシーンも、それが何か大きな意味を持つことを仄めかしてはいるが、伏線が完璧に回収されるわけではない。しかしながら、この作品を隅々まで完全に理解しようとすることこそナンセンスというものだ。なぜなら、グレイスはこう言っていた。「オーブリーだけが私を理解してくれる」――と。
タイトルのスターフィッシュとは、ヒトデのことである。作中でもグレイスが飼っていたクラゲにオーブリーが餌のヒトデをあげるシーンがある。ヒトデは再生能力の高い生き物として知られており、敵から逃げるときには自身の体を切るらしい。しかも、腕を切ったヒトデの本体は、切った腕の部分から新しい腕が再生して元の形に戻り、さらに中枢神経が傷ついていなければ、切れた腕からも小さな腕が伸びてきて同じ遺伝子の新たなヒトデが発現するという。
もちろん、人間の身体でそんなことはできないのだが、精神世界では、できる。というより、やっている。誰しも何かを失い、深く傷ついたことがあるだろう。人は喪失と再生を繰り返して生きている。耐えがたい喪失に衝突した時、ゆっくりでもいい、前に進むことこそがあなたを救う信号になるのだ。あなたも自身の過去に思いを馳せながら、鑑賞してみてほしい。
【ストーリー】
親友グレイスを失ったオーブリー。悲しみに耐えきれずグレイスの家に忍び込む彼女だったが、翌朝目覚めると人々の姿が忽然と消え、見慣れた街は怪物が闊歩する異様な世界に変貌していた。これは現実なのか幻なのか。わずかな手がかりはトランシーバーから漏れ聞こえる男の声。そしてグレイスが遺した1本のカセットテープ。街のいたるところに隠されたテープを集めて信号を解読すれば世界が救える。親友が遺した謎のメッセージを信じて、オーブリーは決死の覚悟で扉を開けて外へ飛び出していく…。
『スターフィッシュ』
脚本・監督・作曲:A.T.ホワイト
出演:ヴァージニア・ガードナー、クリスティーナ・マスターソン、エリック・ビークロフト、
ナタリー・ミッチェル、石田淡朗
2018年製作/99分/イギリス・アメリカ合作/原題:Starfish/配給:アムモ98
©2018 Starfish Productions,LLC. All Rights Reserved.
シアター・イメージフォーラムほか全国公開中
公式サイト https://starfish-movie.com/
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2024.10.02 20:00心霊“実話に基づく”SF青春映画『スターフィッシュ』に胸が締め付けられる! エモと怪物が切り拓く新たな地平のページです。SF、ヒトデ、クリーチャー、スターフィッシュなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで