4大宗教の「食の規定」とカニバリズムの関係とは? アステカの神々が人肉を求める驚きの理由

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画像は「Getty Images」より

アステカの人肉食もキリストの聖餐も理由は同じ?

 続けて『ヒトはなぜヒトを食べたのか』という衝撃的なタイトルの本を紹介しよう。生態人類学者マーヴィン・ハリスによる食人と文化の起源を問うた研究だ。いわく、太古の人類は、大型哺乳類などの動物を狩り尽くし食べて絶滅させたことにより、農耕と牧畜が始まった。結果、余剰カロリーと富の蓄積によって、文化として「戦争」を開発した。戦争の目的は、食糧の確保である。戦争に最適化する過程で女系社会を経由して、部族やバンドを超える国家をつくり、結果として国家が生まれる。そして、国家は食糧としての動物を供給するために、宗教に食の可否を正当化させた。その事例としてアブラハムの宗教の「豚」、インドの「牛」禁忌があげられる。

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ヒトはなぜヒトを食べたか―生態人類学から見た文化の起源(早川書房)

 著者は、さらに刺激的な主張を行う。ユーラシア大陸では家畜が食えたが、中南米では大型の哺乳類が洪積世(約258万年前から約1万年前までの氷河期)には絶滅していた。結果、中米アステカ文明(1428-1521)のころには、食える家畜がおらず、アステカでは食人が国家と宗教によって制度化された。つまり、ユダヤ教とイスラム教が豚を、ヒンドゥー教が牛を禁じたことは、アステカ文明が「人肉食」を肯定した事実と何ら差がないという説である。新約聖書においてキリストは自らを食べるように勧めている箇所すら存在する。

 その「食」が聖か呪いかを問わず、国家が食糧供給と人口維持のために宗教を利用した、という主張である。なぜ神が食物の可否・禁止を求めるのか。なぜなら、それは人間の都合に過ぎない。これがマーヴィン・ハリスの主張である。

 刺激的で説得的でさえある主張だ。しかしながら2018年のイグノーベル賞によれば、人肉の栄養価は古代に比べるとかなり低いらしい。筋肉1kgあたりイノシシは4000kcalあるが、現代人だと1300kcalほどらしい。現代では、結局何を食べてもよい無宗教が一番楽に暮らせるのかもしれない。

 マーヴィン・ハリスの主張は、たしかに説得的だ。国家が宗教を利用したのかもしれない。しかし、その逆はないだろうか。動物やヒトの血肉を求める神々が国家を利用した可能性はないのか。アステカの神が国家にカニバリズムを正当化させたのかもしれない。そう思うと、各宗教の食事規定がグロテスクに見えてくるのは、気のせいだろうか。

文=神ノ國ヲ

学術論文からオカルト記事まで。
京都大学の博士課程に所属中。
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