脳に刺した電極で“強烈な陶酔感”、実の娘も実験台に… 悪魔の科学者は「洗脳装置」を開発したのか?
マスコミによって「悪魔の科学者」の烙印を押される
スティモシーバーの最も有名な実験は、1963年にスペイン・コルドバの闘牛場で実施された。デルガードは、脳内にスティモシーバーが埋め込まれた闘牛とともに競技場へ入り、リモコンを操作して闘牛の行動を制御した。デルガードによって刺激された闘牛の脳の領域は、随意運動を司る尾状核だった。スティモシーバーの刺激によって闘牛は攻撃本能を失ったような状態となった。
この実験について、米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部倫理学教授ジョナサン・モレノ氏は、「彼(デルガード)は偉大な人物でした。闘牛実験の大胆さは皆に感銘を与えました。他の多くの研究者がそのようなことを達成できたかもしれませんが、それでも彼らはげっ歯類の脳を電気で制御しているだけでした。一方、デルガードは大衆の想像力を掌握した人物でした」と評した。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」も一面記事で、闘牛実験を「脳の外部制御による動物の行動の人為的な操作について、これまでに行われた中で最も壮観なデモンストレーション」であると解説した。
デルガードは多くの発明を生み出し、「技術の魔術師」と呼ばれた。スティモシーバーの他に、制御された量の薬物を特定の脳領域に放出する埋め込み型デバイスである「ケミトロード」や、心臓のペースメーカーの初期バージョンも発明した。
一方で、1970年代初め、米国を中心として世界中で、スティモシーバーが人間を洗脳して操る装置であるというデマが広まった。デルガードは、自ら開発した技術が特定の思考を生み出したり、攻撃的または感情的な反応を特定の対象に向けたり、被験者に複雑なタスクを実行させたりすることはできないと弁明した。しかし、脳にスティモシーバーを埋め込まれて操られていると訴える者たちまで現れた。これらの訴えが妄想であることが判明した後も抗議が続き、デルガードは米国から実質的に追放されて母国スペインへ戻った。
デルガードは自らの業績を「科学的知識を進歩させ、人間の福祉を改善するという道徳的および社会的義務」に基づいていると主張した。それにもかかわらず、1980年代にスペイン・マドリード自治大学で、自分の娘を含む多数の被験者に対して人体実験を行ったため、一部のマスコミによって「悪魔の科学者」の烙印を押された。その後もデルガードは記事や書籍を通じて自身の研究と哲学的アイデアを発表し続け、全部で500本以上の記事と6冊の本を執筆した。
脳性麻痺やパーキンソン病の患者に対する効果の点から、スティモシーバーを再評価する動きがある。しかし、スティモシーバーが洗脳につながるという偏見は根強く、医学の世界では依然としてスティモシーバーはタブー視されている。脳科学研究が進む昨今、デルガードの業績が全世界で注目される日が訪れるかもしれない。
参考:「Cognitive-Liberty.online」、「Discover Magazine」、ほか
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