CIAの「スパイ鳩」が市民を監視! 訓練されたハトの偵察活動は実行可能と結論

 米ソ冷戦時代にアメリカ中央情報局(CIA)は敵の盲点を突く奇想天外な“偵察兵”を養成していた。実地テストを行って合格し、実戦に投入されるのを待つばかりであったその優秀な偵察兵は、なんと“平和の象徴”であるハトだったのだ――。

ハトが優秀な“偵察兵”に

 究極の偵察兵(斥候)は“透明人間”だが、光学迷彩技術の実用化はまだかなり先のことになりそうだ。ドローンの活用も有効な手段だが、小さくとも人工物が飛んでいればそれなりに人目につく。

 しかしもしもそれが自然環境の中に溶け込んでいる存在であれば、偵察兵やスパイだとは露ほどにも思われないだろう。

 機密解除されたCIA文書によれば、スパイ業務にハトが抜擢されて国内で実地訓練が行われていたことが報告されている。確かに“平和の象徴”であるハトを作戦任務に活用できれば、敵の目を欺くのにきわめて有効だろう。

 ハトを偵察やスパイ活動に従事させるというアイデアは昔からあった。

 ローマの歴史家、プリニウスはこの時代に伝書バトが軍隊の通信手段に使われていたことを記しており、第一次世界大戦中のドイツ軍は、通信だけでなくハトを偵察のために利用できないか検討していたことが記録に残されている。

 米軍も19世紀後半から通信用に伝書バトを活用していたが、偵察任務に従事させたという記録は残っていない。

 1976年9月に機密解除されたCIAの文書には「数年間、研究開発局(ORD)はさまざまな種の鳥を訓練するための努力を行ってきました。しかし1976年1月までの鳥類プログラムは『ありそうもない、風変わりな、ユーモラスなアイデア』として却下されていました」とある。

 しかしソ連の軍事施設などの警備が厳重なエリアを写真で撮影しようとする際、スパイ衛星や高高度偵察機以上に鳥が有効活用できる可能性があることが指摘され、それまでの認識が一変して真剣に検討されることになったのだった。

CIAの「スパイ鳩」が市民を監視! 訓練されたハトの偵察活動は実行可能と結論の画像1
「CIA」より

 実際にハトを使った実地テストが何度も行われ、警備が厳重な政府施設の上空から、ハトの腹部に装着した小型カメラによって写真が繰り返し撮影されたのである。

 たとえばワシントンの海軍工廠の上空を飛ぶハトの“スパイ”は敷地内の様子とそこで働く人々の姿を克明にとらえた写真を撮影している。これは最先端のスパイ衛星や偵察機によって撮影された画像よりも数段階、解像度が高い写真であった。つまりハトは“偵察兵”として優秀な働きを見せたのだ。

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「CIA」より

施設上空を飛ぶハトが撮影した写真の数々

 ハトを軍事活用するこのプロジェクトは発足後に急速に拡大した。1976年9月までに、ORDはすでに10万ドルをハトの訓練だけでなく、運用のための機材ととカメラの設計に投資したのだ。

 テストとトレーニングは、全米の国土で実施された。ハトを輸送するために専用に改造されたフォルクスワーゲンビートルが配備された。舞台のマジシャンからインスピレーションを得てハトの出現方法を工夫し、ビートルの床の開閉式の穴からハトを隠密裏に放すことができたのだ。

 敵(ソ連)の政府施設や軍事施設に見立てたアメリカ国内の施設、たとえば前出のワシントンの海軍工廠やワシントンD.C.近くのアンドルーズ空軍基地などの上空でテストが繰り返されたのだが、その際には一般の職員や兵員にはテストの実施を告知しておらず、ハトが撮影した写真には人々の日常の勤務風景が収められていた。当然だが上空を飛ぶハトを警戒する者などいなかったのだ。

CIAの「スパイ鳩」が市民を監視! 訓練されたハトの偵察活動は実行可能と結論の画像3
「Atlas Obscura」の記事より

 ハトが捉えた画像は驚くべき品質で、ビル上空からエアコンの室外機がはっきりと確認でき、旧海軍砲工廠の窓ガラスは数えられるほどだった。ある写真では公務員が徒歩で通勤しているのが簡単に確認でき、彼らが通勤に使う車のヘッドライトの形状を確認することも可能であった。また彼らの服装が70年代のトレンドを反映していることも容易に判別できた。

 軍事施設にいた職員と兵員のプライバシーが多少なりとも失われることには議論の余地があるのだが、ある意味では愉快なこのプログラムは正式に採用されることなく1978年に終了することになる。

 1978年4月1日付けの最後のレポートは、プログラムが「高解像度の要件」を満たしており、ハトを使った偵察活動は実行可能であると言及しているが、残念ながら局内での賛同を得られなかったようだ。

 とはいってもこのプログラムに関係する文書がすべて機密解除されているわけではないので、その後どのような経緯を辿ったのか予断は許さない。もしかすると身近にいるハトの少なくない個体は、素知らぬ顔で我々を監視しているのかもしれない!?

参考:「Atlas Obscura」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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