今後のウクライナ・ロシア情勢で最も注目すべき人物をジェームズ斉藤が暴露! プリゴジンの反乱はGRUの大幹部が画策か

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プリゴジン氏(画像は「Getty Images」より)

──ロシアのプリゴジンの反乱もとりあえずいまは落ち着いていますが、終わったわけじゃないですよね?

ジェームズ斉藤(以下、ジェームズ):まったく終わっていません。今は嵐の前の静けさです。なお、プリゴジンは既にロシアに戻っているという話です。

──ロシア!? ベラルーシに亡命したんじゃないんですか!?

ジェームズ:すでに戻ってきてプーチンと会ったという話まであります(苦笑)。あとはロシア連邦保安庁(FSB)によってプリゴジンの自宅が家宅捜索されて日本円で15億円ぐらいのアメリカドル、20億ドル分ぐらいのルーブル、金塊が5つ出てきました。あとは大量のかつらです。

──かつら?

ジェームズ:変装用です。プリゴジンのFSBのエージェント時代の変装画像がFSBによって大量にリークされていますね、いま。ともかく、大量の資産が自宅から見つかったのですが、プリゴジンがロシアに戻るとその資産をFSBが全部返したらしいです。

──えっ!? なぜ返すんですか?

ジェームズ:不思議ですよね。返す意味がないですし、FSBはプリゴジンと遭遇した時点で殺さないといけないはずなんですが(苦笑)。

──前からプリゴジンはロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)なのか、FSBなのかって話があったじゃないですか? 

ジェームズ:その辺がはっきりしないところがあったんですが、プリゴジンはもともとソ連国家保安委員会(KGB)関係者でソ連崩壊のあとはFSBの関係者になっています。正規職員ではなく、「汚れ仕事」専門のエージェントです。ワグネルグループの仕事を始めた時は、プーチンの代理人として乗り込んでいっています。ワグネルはGRUの組織で、プリゴジンはワグネル及びGRUを監視するためのFSBの要員だったんです、その時は。つまり、「トロイの木馬」だったことになります。しかし、ワグネルのCEOとしてアフリカに進出し、ゴールドの採掘でボロ儲けしているうちにだんだんGRU寄りになっていったようですね。兵士と金を持っているのはGRUのほうですから、プーチンやFSBは裏切れてもGRUは裏切れないようです。

──ならば、FSBがプリゴジンの資産を返すのは余計変ですよね?

ジェームズ:変ですね。しかしこれは、GRUが後で資産奪回のためにFSB側に刺客を送らないようにするための予防処置です。一連の騒動で重要なのは、クレムリン発の情報は基本的にフェイクまみれのディスインフォメーションだということです(苦笑)。プリゴジンがベラルーシにいるとか、戻ったとかという話はぜんぶ「ロシアン・ゲーム」です。つまり、「クレムリン内の玉座を巡る椅子取りゲーム」ということです。

──国内の椅子取りゲーム!? 

ジェームズ:ロシアを見る時は「何を軸に考えるか」という視点ががないと即ディスインフォメーションに埋もれ、何も見えなくなります。では、何が軸なのかというと「力の論理」です。単純といえば単純で、裏を返せば「力の論理」さえ理解できればロシアほど単純明快な国はないです。この基礎ができていない「自称ロシア専門家」がマスコミで発言するのでややこしくなります。今回のプリゴジンの反乱によってプーチン体制が弱体化したことはまぎれもない事実です。これはもう隠すことはできません。朝日新聞が書いたように「プーチン体制の終わりの始まり」というのは間違いありません。ただ、プリゴジンだけでは力不足でしたので、ベラルーシの大統領のルカシェンコが登場したということです。

──ロシアの大統領を巡る椅子取りゲームにルカシェンコまで加わったということですか?

ジェームズ:そうです。ルカシェンコがこれだけ発言権を増しているのにプーチンが黙っているのがその証拠です。昔だったら考えられませんよ。プーチンはルカシェンコを雑魚扱いしてましたからね。ロシア南部のソチで二人が会談中、突然プーチンが「海で泳いだらどうだ?」とルカシェンコに言ってるんですよ。5月のソチなんか寒くて普通は泳げないですよ。しかし、ルカシェンコは海に飛び込んで泳いでますからね(苦笑)。

──一国の大統領に若手のお笑い芸人みたいなことをさせたってことですか!?

ジェームズ:そうです。ルカシェンコはプーチンの靴を舐めんばかりでした。そこまでしていたルカシェンコでしたが、今年の5月27日、プーチンと密室会談を終えた直後にルカシェンコは倒れて病院に緊急搬送されています。これはFSBの毒殺が失敗したようですけど。  それでも反抗できなかったルカシェンコがいまはプーチンと同じぐらいの発言権を持っています。ルカシェンコもクレムリンの玉座を狙った椅子取りゲームに参加しているのでこういう動きになっています。

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ルカシェンコ大統領(画像は「Getty Images」より)

──プリゴジンがロシアに戻ったのもルカシェンコの命を受けているんですね。

ジェームズ:プーチンに対してゆさぶりをかけています。「俺はプリゴジンをロシアに戻すぐらいの力を持っているぞ」「ワグネルがクレムリンを狙っているぞ」という。プリゴジンはいまルカシェンコの駒として使われています。

──プリゴジンが駒扱いですか?

ジェームズ:プリゴジンは軍も持ってるし、個人資産もありますが、ルカシェンコよりは権力はありません。逆にルカシェンコを後ろ盾の一つにして動いています。ベラルーシの軍としてもワグネルの存在は大きいです。なにしろ、いまの最先端のハイブリッド戦における最も豊富な実戦経験を持っているのはワグネルですから。ベラルーシの軍隊は6万人ぐらいですが、実戦経験がないスカスカの軍隊です。そこにワグネル軍が来たので軍事訓練でいま徹底的に鍛えてもらっているらしいです。もしかしたらロシア軍より強くなる可能性がありますね。

──ショイグ国防大臣とかはどうなっているんですか?

ジェームズ:先日、ロシア南部の軍事訓練を視察したという報道と映像が出ていますが、真偽はわかりません。いつ撮った映像なのか明言していないですから。ゲラシモフ参謀総長のほうは9日の軍の会議に出席している姿が公開されています。前回の記事でも言っていますが、いまはショイグ、ゲラシモフの更迭はないと思います。それをしたらプリゴジンの要求を飲んだことになります。プーチンがプリゴジンに屈したことになりますから、それは絶対にしないと思います。プリゴジンの反乱で捕まったのはセルゲイ・スロビキン上級大将です。彼はプリゴジンの反乱に賛成していましたし、実は裏の顔はワグネルの重役でクーデターの謀議に直接関わっていました。もう一人、ロストフという南部軍区司令で反乱直前にプリゴジンに会った国防次官のユヌス=ベク・エフクロフ上級大将がいるんですが、彼も捕まっています。気になるのがウラジミール・アレクセイエフ中将というGRUのナンバー2で、私は彼が今回のプリゴジンの反乱の黒幕と判断しています。彼はウクライナ出身で純血のウクライナ人ですが、ソ連崩壊後はロシア軍に従軍しGRUの特殊部隊であるスペツナズで活躍した伝説の特殊部隊員です。2011年から12年間もGRUのナンバー2を務めていて、ワグネルグループを作ったのはこの人です。プリゴジンは登記上の創業者ですけど、ワグネルを実際に組織として作ろうとしたのはアレクセイエフです。ロシア軍に戦争をさせると国家間の争いになるのでGRU管轄下の非政府組織に戦争をやらせようと発想しました。紛争が起こっても民間軍事会社であれば「ロシア連邦は戦争をしていない」と言えますからね。それで2012年ごろからワグネル創設の動きが出てきて14年に正式にデビューしました。ですから、システムの構築及び運用を担当したのはアレクセイエフです。

──プリゴジンの上司みたいな人がまだいたんですね。

ジェームズ:このアレクセイエフはプリゴジンの反乱の前にスロビキンと一緒にビデオメッセージを作っていて、「プリゴジン、お前のやろうとしていることは国家に対する反逆行為だ。背中にナイフを刺しにいくようなものだ」と言ってるんです。プリゴジンの反乱を止めています。ところが、そのビデオメッセージが公開された1時間後ぐらいにロストフの司令部でプリゴジンと会って談笑しています。プリゴジンが「ショイグ、ゲラシモフのリーダーシップには飽き飽きした。俺がモスクワに乗り込んで国防省を乗っ取る」と言うと、アレクセイエフは「Да, забирай!(どうぞ、取りに行け!)」と答えているんですよ。しかも二回もニヤニヤしながら連呼しています(苦笑)。それがビデオに残っています。

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ロストフで会合するプリゴジン(中央)とアクレセイエフ(右)(画像は「Getty Images」より)

──じゃあ、捕まるんじゃないんですか?

ジェームズ:ところが捕まっていないんですよ。同じく、プリゴジンの行動に賛成したスロビキンは捕まっているのに、アレクセイエフはなぜか捕まっていないんです。GRUのナンバー2といえば、プリゴジンの大ボスです。その大ボスが「(ショイグ、ゲラシモフを)取りに行け!」と言ってるから、プリゴジンは正義の行進だと言ってモスクワに向けて進軍したんです。

──プーチンはアレクセイエフに手が出せない理由がなにかあるんですか?

ジェームズ:アレクセイエフをいま捕まえると本格的な内戦になってしまうので、プーチンも手が出せません。本来であれば「Да, забирай!(どうぞ、取りに行け!)」と二度も笑いながら連呼した映像が残っているんです。これは国家反逆罪の決定的証拠でアレクセイエフは即処刑か暗殺のはずです。しかし、手が出せないのはやはりクレムリンの統治機構が機能していないからです。彼こそが、今回の反乱の首謀者と言っていいでしょう。日本や欧米のプリゴジンの反乱の分析を見てもアレクセイエフに言及するものはほぼありませんが、ここは重要です。今後はアレクセイエフにも注目してください。

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文=中村カタブツ君

元『紙のプロレス』編集者。現在は認知科学者である苫米地英人先生の出版関連業務に携わっている。
著書『極真外伝―極真空手もうひとつの闘い』(ぴいぷる社)
編集『苫米地博士の「知の教室」』(サイゾー)
編集・構成『日本人はもっと幸せになっていいはずだ』(サイゾー)

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