戦闘機がUFOを追跡、パイロットが宇宙人に攫われた? 英国で最も信じられているエイリアン・アブダクション事件の全貌

 東西冷戦の高まる緊張の中で起こったエイリアン・アブダクション事件(宇宙人による誘拐事件)なのか――。イギリス空軍機が謎の墜落を遂げた事件で、パイロットの姿が忽然と消え去っていたのだ。

スクランブル発進して帰らぬパイロット

 一触即発の緊張に包まれた東西冷戦時代、熟練したアメリカ人パイロットが最新鋭戦闘機でスクランブル発進をした後、残念ながら帰らぬ人となった。

 アメリカ空軍パイロット、ウィリアム・シャフナー(1941-1970)は冷戦時代にイギリス空軍に所属し、当時のイギリスの最新鋭戦闘機、BACライトニングを操縦していた。

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BACライトニング 画像は「Wikimedia Commons」より

 1970年9月8日の夜、イギリス空軍のレーダー基地がイギリスの海岸近くの上空で未確認物体を捕捉。

 シャフナーにスクランブル発進の命が下り、スコットランドのビンブルック基地からBACライトニングが緊急発進した。

 レーダーはUFOの追跡を続けたが、UFOはデンマークの近くでレーダーから消える前にイギリスの海岸を上下に移動しているように見えた。

 シャフナーのBACライトニングのほかにも哨戒機のアブロ・シャクルトンがUFOを追跡した。その夜の天候は荒れておりUFO自体は謎のままだったが追跡作戦はうまくいき、帰還命令が下った。

 アブロ・シャクルトンが基地に帰還するとパイロットはシャフナーのBACライトニングがまだ戻っていないことを知り、すぐさまシャフナー捜索へ出た。しかし、BACライトニングの痕跡は見つからなかった。

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アブロ・シャクルトン 画像は「Wikipedia」より

 シャフナーの最後の無線通信はパトリントン空軍基地の管制センターとのものであった。

 シャフナーがUFOの方向を告げる最後の言葉を発するまでは、通信はコンスタントに行われていたようであったが一度途絶し、管制センターが通信を再確立しようとしていた間、シャフナーからのさらなる無線通話はなかったことが示されていた。

 翌朝から本格的な捜索がはじまったがなかなか手がかりは得られずいたずらに時が過ぎ、1カ月後の10月7日、イギリス海軍の艦艇「ケドルストン」がヨークシャー沖のフランボロヘッド近くの海底でBACライトニングを発見した。 12月には墜落調査の一環として機体の残骸を引き上げて回収する決定が下された。

 引き上げられた機体は驚くほど無傷で、おそらく着水の衝撃で受けたとみられる軽微な損傷のみであった。コクピットのキャノピー(天蓋)は閉まっていたがシャフナーの遺体はどこにも見当たらなかった。

 シャフナーの最期の地は特定されたのの機体はもぬけの殻で、多くの疑問と憶測を引き起こすことになった。

エイリアン・アブダクション説も登場

 時代は東西冷戦真っ只中であり、特に軍事に関係する情報にはナーバスにならざるを得ない状況にあった。機体の残骸は研究のためにビンブルックに運ばれた後、イギリス空軍調査委員会によって調査が開始されたが、事件は極秘にされ捜査は秘密裏に行われた。

 イギリス空軍が極秘の捜査を行いたかったのは理解できるが、事件の奇妙な性質と捜査結果が国民やシャフナーの家族からも遠ざけられていたため、さまざまな噂や“陰謀論”が囁かれはじめた。シャフナーはUFOによって誘拐されたのだとする説、つまりエイリアン・アブダクション説も登場していた。

 謎に包まれたままのBACライトニング墜落事件だったが、ソ連崩壊後の1992年10月、ジャーナリストのパット・オッターが「グリムズビー・テレグラフ」紙で発表した一連の記事で事件が再び注目されることになった。

 オッターの匿名情報筋によると、当時のイギリス空軍は北海エリアでUFO(未確認飛行物体)が増加していることを認めていたという。そしてこの空域で飛行中にUFOを目撃したイギリス空軍のパイロットの証言も入手して紹介している。

 パイロットによれば、UFOは円錐形あるいは透明な球体のような姿でマッハ2以上で飛行し、近づくとコクピット内の計器類を誤作動させるという。とすればシャフナーの機体も機器の誤作動によって墜落したのだろうか。

 1994年までにはより多くの新聞がUFO目撃疑惑の記事を取り上げるようになり、オッターの記事はさまざまなUFO研究団体によって支持され、その記事はUFO目撃と陰謀論を専門とする新興のインターネットフォーラム全体にも広がっていった。

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画像は「Pixabay」より

機密文書が公開される

 2002年、シャフナーの息子であるマイクとグレンはイギリス国防省に対し、この事件に関するファイルの機密を解除し実際に何が起こったのかを明らかにするよう公的に訴えた。

 2008年、ロンドンの国立公文書館は最終的にシャフナーの事件の詳細を記したいくつかの機密文書と写真を公開した。記録にはUFOについては言及されておらず、シャフナーが追跡していた航空機への言及と、その速度と方角についての報告のみが記されていた。つまりシャフナーが追跡したのはUFOではなく、既存の航空機であったのだ。

 またコックピットのキャノピーが閉じていたのは、海底の冷水の中で油圧オイルが圧縮された結果である可能性が高いことが示唆されることになった。

 捜査当局はまた、シャフナーのBACライトニングが嵐の中の暗い海の上空を飛行中にレーダーから消えたのは、シャフナーが「空間識失調」によって操縦が乱れて墜落した可能性があることを指摘した。この見解はシャフナーの息子たちによっても支持されたという。

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「PlaneHistoria」の記事より

 同じ頃、イギリス空軍の退役した飛行隊リーダーが名乗り出て、自分はその夜飛行した哨戒機のアブロ・シャクルトンを操縦していたことを明かし、そしてシャフナーが追いかけていた謎の飛行物体はUFOではなくこの哨戒機だったと打ち明けたのだ。

 彼にによればシャフナーのスクランブル発進は、NATO基地での迎撃機の反応時間をテストするために設計された極秘の戦術評価演習の一環であったという。

 これらの演習はイギリス空軍とNATOの航空機が意図的に敵機役で派遣され、迎撃機がどれだけ早くスクランブル発進して追跡体勢に入ることができるのかが試されるという、いわば“抜き打ちテスト”であったのだ。冷戦時代ならではの緊張感を伴う訓練が“実戦形式”で随時行われており、この演習中にシャフナーは空間識失調によって墜落したと考えるのが最も説明がつくののである。しかしシャフナーの遺体は本当に見つけることができなかったようだ。

 こうして機密文書の公開により、何が起こったのかについての最も説得力のありそうな説明が提供されたが、一部のUFO愛好家は引き続き調査結果が述べている以上のことが起こったと信じているようだ。

 たとえばUFO研究家のラッセル・ケレット氏はこの海域の海底にエイリアンの秘密基地があることを示唆している。また円錐型や透明な球体のUFOが空軍パイロットによって目撃されていることも軽視できないだろう。“一件落着”と胸を撫でおろすのはまだ早いのかもしれない。

参考:「PlaneHistoria」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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