「キリストにプロポーズされて結婚した」伝説のレズビアン修道女、ベネデッタ・カルリーニの謎!
17世紀に実在した“レズビアン修道女”、ベネデッタ・カルリーニとはいかなる人物であったのか。彼女の生涯を追うと、中世のカトリック教会の実態が垣間見えてくるようだ。
■レズビアン修道女が女子修道院長に就任
映画『Benedetta』はジュディス・C・ブラウン著『Immodest Acts』(1986年刊、邦訳『ルネサンス修道女物語』ミネルヴァ書房、1988年刊)を原作とした17世紀のイタリアの修道女、ベネデッタ・カルリーニの興味深い物語である。
“レズビアン修道女”という異名を持つベネデッタとは、いったいどんな人物であったのか。その波乱万丈の生涯をブラウンは詳細に調べて同著に書き記した。
1590年にイタリア中部の町、ヴェッラーノの裕福な家庭で生まれたベネデッタは、父親の意向で修道院に入ることが半ば運命づけられていた。
子どもの頃から神への奉仕に専念する日常生活は、祈り、断食、そして共同作業で構成されており、修道女たちは町民との交流を禁じられていた。
ブラウンによれば、修道院という抑圧的で孤立した環境の中でベネデッタは徐々に天国からの“ビジョン”を受け取るようになったという。彼女が見る“ビジョン”には聖母マリアやキリストが登場し、その内容が信者やほかの修道女や修道士の注目を集めることになる。
そして十字架に磔られたキリストの身体の傷、つまり“聖痕”がベネデッタの身体にも浮かび上がり人々に畏怖の念を抱かせたり、キリストにプロポーズをされて結婚したことを報告するなど、ベネデッタは徐々に神格化されて信奉者を増やしていく。そしてこうしたいくつもの“奇跡”を起こしたベネデッタは遂に修道院の女子修道院長に選出されることになる。
ベネデッタとキリストの結婚の折に、召集された修道女たちには具体的な奇跡を目撃することが期待されていたのだが、その時には何も起きなかった。
この一件でベネデッタのこれまでの奇跡に疑惑が生じはじめ、カトリック教会は主席司祭を修道院に派遣してベネデッタの身辺を調査することになった。
■疑惑を深めた教会による魔女裁判
このような調査は当時では普通に行われていたことで、神秘主義的な聖職者がしばしば奇跡を偽造することがあったのである。派遣された司祭はベネデッタの身体の聖痕を調べたが、傷口がかさぶたで覆われている時もあれば、また新たに出血を伴っている場合もあった。治りかけたところで、ベネデッタが故意に自傷に及んでいる可能性は否定できなかった。
疑わしいところはあったものの、この最初の調査で主席司祭はベネデッタの“ビジョン”は公式に検証され、彼女は修道院長として相応しい人物であることが確認された。
しかし問題は2度目の調査であった。より高位の教皇使節によって行われた調査で、ベネデッタの“ビジョン”にはいくつかの神学的矛盾があり、またベネデッタを守っている守護天使の名前は聖職者の誰も知らないものであった。
さらに周囲の修道女たちがベネデッタの偽装工作を密告するようになったことで教会側の疑惑の視線はさらに強くなった。
そしてベネデッタにとって決定的な逆風となったのは、若い修道女のバルトロメアとの関係が明らかにされたことである。“ビジョン”を見ている最中にベネデッタはバルトロメアをベッドに押し倒し、激しくキスを貪り暴行まがいの性行為を行っていたというのである。
こうしたことが明らかになってからは、さながら魔女裁判のようにベネデッタは教会から断罪され、数々の偽装を暴かれた。この女子修道院長は今や奇跡を起こす存在ではなく、悪魔に憑かれた者であるとの裁きが下ったのである。
当時(中世後期)、レズビアン主義で告発された人々にはしばしば火あぶりの刑が下された。若い修道女を犯したベネデッタも刑に処される可能性があったのだが、幸か不幸か、悪魔に憑かれた状態での行為であると見なされたため処刑を免れることになった。
しかしベネデッタは女子修道院長の辞任を余儀なくされ、修道院内で投獄された後、一歩も外に出ることなく71歳で亡くなった。
不幸な晩年を送ったベネデッタだが、彼女の死を悼む葬儀が行われると、聞きつけた多くの信奉者が遠方から駆けつけて予期せずして盛大な葬式になったという。著者のブラウンは結局のところベネデッタは勝利したのだと記している。
「ベネデッタは勝利しました。彼女は世界に彼女の痕跡を残しました。そして投獄も死も彼女を沈黙させることができませんでした」(同著より)
きわめて封建的であった中世の時代、それに輪をかけて閉塞的であったはずの修道院の生活の中で“レズビアン修道女”ははたして何を夢見ていたのか。そして彼女が物語る“ビジョン”と奇跡に決して少なくない信奉者がいたことも事実であるようだ。ベネデッタは時代と教会に翻弄された稀代の“ドリーマー”であったのかもしれない。
参考:「Big Think」、ほか
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