美しい母親から「世界一醜い女性」へ……先端巨大症に苦しんだ女性の生き様

 4人の子供を持つ美しい母親から一転、「世界一醜い女性」へと変貌を遂げた女性の波乱万丈の人生が涙をさそう――。彼女は子供たちのために「世界一醜い女性」として自らの容姿をお金に換えたのである。

■夫の死後、謎の症状に襲われる

 1874年にイーストロンドンのプレイストウで8人きょうだいの1人として生まれたメアリー・アン・ウェブスターは、成長してからは看護師としてのキャリアをスタートさせた。

 32歳の時に彼女はケント州の農夫トーマス・ベヴァンと結婚し、1902年に名前をメアリー・アン・ベヴァンに変更した。

「UNILAD」の記事より

 夫婦は4人の子供を授かり、順調な家庭生活を送っていたが、1914年に夫が急死するという災難が一家を襲った。夫の死後、メアリーは深く落ち込み健康状態にも影響を及ぼしたのだといわれている。残念なことにメアリーは「先端巨大症」と呼ばれる下垂体性成長ホルモン分泌亢進症を発症してしてしまう。

 先端巨大症では額、鼻、唇や下あごに加えて、手足など体の先端が肥大する症状である。トーマスの死後、彼女の顔は異常に成長し始め、歪み始めたと伝えられている。

 アメリカの総合病院「メイヨークリニック」によると、先端巨大症は生命を脅かす健康上の問題を引き起こす可能性があり、認識するまでに数年かかる場合もあるという。

 現在、先端巨大症は早期に発見されれば治療可能であるが、20世紀には医学がそれほど進歩していなかったので、メアリーは刻々と変化する症状を無為無策のままに受け入れるしかなかったのだ。

 夫の収入がなくなったことに加え、いくつかの理由から看護師の職を失ったメアリーは、4人の子供たちを養うことができなくなってしまった。

「UNILAD」の記事より

■「世界一醜い女性」コンテストで優勝

 家計の危機に直面したメアリーの目に入ったのは、地元ロンドンで開催されるという「世界一醜い女性」コンテストであった。高額の賞金にも魅かれてメアリーは応募することにしたのだ。そして応募総数250人の参加者の頂点に輝いたのである。

 賞金を得てひとまず家計の危機を回避できたメアリーであったが、無職であることに変わりはなかった。そこでメアリーは「世界一醜い女性」の称号を最大限活用し、米ニューヨークに渡りコニーアイランドの遊園施設「ドリームランド」のショーに出演することになったのだ。このショーはいわゆる「フリークショー」であり、さまざまな身体的特徴を持つ人々が一同に介した“見世物小屋”であった。

「UNILAD」の記事より

 彼女はコニーアイランドで2年間、ショーに出演することで今日のお金で2億円以上を稼いだといわれている。しかしこの間も先端巨大症は進行し、絶え間ない痛みに苦しんでいたのだった。

 1933年12月、メアリーは59歳で亡くなり、彼女の希望通り、南ロンドンのレディウェル・ブロックリー墓地に埋葬されたのだった。人に頼ることなく、子供たちのために自分のビジュアルを逆手に取って見世物になったメアリーの半生は自主自立を貫いた立派な生き様であったいうほかにない。願わくば当時の社会に弱者救済や保健福祉の要素がもう少しあったならば彼女のストーリーはだいぶ違うものになっていたかもしれない。

参考:「UNILAD」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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