【ヤバめのテクノロジー】異端科学の世界Vol.01『オカルト女王:角由紀子と超能力者になる音楽を体験』

 常温核融合にエマルジョン燃料、肥料のいらない水にゼロ磁場などなど、世の中にはウソかマコトか疑わしいオルタナティブ=異端な科学技術が眠っている。

 世界を変える技術なのか発明家の妄想か、真偽定かならぬ知の地平線には何が待っているのか? 異端科学の世界を覗いてみよう。ジャッジメントするのはあなただ。

■聞くだけで運が良くなり、鼻水が止まる音?

 音楽を聴くだけで、英語が上達し、運が良くなり、目が良くなり、鼻水が止まる? うつ気分から開放され、自閉症の子どもが笑い出し、難聴になった耳鼻科の医師が、耳が聞こえるようになったと喜んだ……音楽で? 超能力的なものも発現? あまりに盛り過ぎだろう。新手のカルトか? そのうちあなたの幸せを祈りにやってくるんじゃないのか? よくわからないが。

 そういう嘘くさいものを面白がる好奇心は大事だ。不調が改善され、運気が上がり、超能力的な感じにオーラが見えたりもするようになるという謎の音楽は、東急東横線で渋谷から20分ぐらいの菊名で体験できる。せっかくなのでオカルト女王の角由紀子総裁を誘ってみた。

「面白そうじゃないですか!」

 即答か。さすが幽霊ドキュメンタリーを作り、アヤワスカを食った女である。疑わない。ノリが良い。ノリは良いが、「今改札に着きました!」とメールは来たのに姿が見えない。なんだ、世界線がズレてるのか? マンデラ効果でフラットアースか? と電話が鳴った。

「すいません! 駅間違えちゃったみたいです」

 世界線がズレたんじゃなくて、駅がズレたのかな。マルチバースでマンデラ効果しなくてよかった。

■ある日、世界の音が一変した

 駅から5分も歩けば、傳田聴覚システム研究所の立派なビルが見えてくる。同研究所 所長の傳田文夫(でんだ ふみお)さんは、クラリネット奏者で音楽家。 洗足学園大学音楽学部で長年講師を務め、さまざまな演奏会を催してきた。クラシック音楽にどっぷりな人生を送ってきた人だ。

クラリネット奏者としてクラシック音楽に触れてきた傳田さんは、ある日、衝撃的な体験をする

 30年以上前、傳田さんは衝撃的な経験をする。

「僕が32歳の時、ある日突然ね。それこそ1万回ぐらい聴いたレコードから突然違う音が聴こえてきたんですよ。クラリネットの曲ですけど、それも戦中に活躍していたプレーヤーのレコードで、もともと音質は良くないんですよ。そこから、それまで聞いたこともないような微細な音が聴こえてきたんです」

 これまですり減る程聴いてきたレコードから、ある日突然、聞こえていなかった音が聞こえ始め、曲自体が別の曲のようにビビットに聞こえ始めたという。今まで聞いていた曲が、突然、本当の姿を現した。

 衝撃なんてものじゃなかった。それまで傳田さんは日本の音楽教育は間違っていると考え、大御所にもケンカを売ってきた。バカだと見下すこともあった。それが正しいと思っていた。ところがだ。今まで自分には音楽の本当の音が聞こえていなかった。

「これはコードが違うとかそういう音質の違いじゃないことはわかった。私はそれまで十何年間も、ずっとクラリネット音楽のことを研究してきた。とにかく必死で研究してきたことが、その一瞬でダメになっちゃったわけですよ。今まで聴いていた音が完全に間違っていたんですから」

 おそらく他の人にはみんなこの音が聞こえていたのだと傳田さんは気がついた。自分がバカにしていた教師はバカではなく、バカは自分だったのだ。

「僕だけがこの音が聞こえていなかったと、そう考えざるを得ないんですよね。それが一番合理的な考えです。みんなは聴こえてたんだよ。自分だけ聞こえないから、自分一人違う研究をやっていた。僕が間違っていた。間違ったまま、長い時間を生きちゃった」

■狂っているのは他人か自分か?

 自分がバカにしていた他の音楽家は、実際は優秀だった。本当の音が聞こえていなかった僕がダメだったんだ……一途に真剣に取り組んできたことがすべて間違っていた絶望。

「半年ほど呆然としたまま過ごしてきて、半年経って初めて答えが出ないことから、それなら逆に考えてみようってね。もしこれが僕だけが聴こえてないとしたら?」

 そうなるとベートベンもモーツァルトも本当の音が聴こえなかったことになる。それもまためちゃくちゃな話だ。

「とにかく古今東西全部、すべての人に僕が聴いた音は聴こえてなかったことにしようと」

 大胆不敵というか、正しいのは俺で、間違っているのは世界だ……孤高の狂人である。

「それで音楽を全部考え直した。疑問点を上げていくと3000点ぐらい出てきた。それをひとつずつ考えていた。考えれば考えるほど、他の奴らは全員、俺の聴いている音が聴こえてないんじゃないか? としか思えなくなってくる。一年半ぐらい経った時に、じゃあなんで俺だけに聴こえてきたのだろうと初めて考えた」

 なぜ俺だけが? この問題の根源にあるのは何だ?

「そんな時にですよ。ある日、駅の階段下った時、ものすごい痛みが右頭部から左脇腹に突き抜けたんですよ。激痛に息ができなくなって階段に座り込んでしまった」

 雷に打たれたのかと思う痛みだった。

「ようやく歩けるようになって、階段を一歩下りたら、頭の中で声がするんです。ゲンゴって」

 もう一歩歩いたら、ゲンゴ。何でこんなに痛い時に? ゲンゴってなんだ?

「階段を降りるとゲンゴ、降りるとまたゲンゴ。何なんだ、ゲンゴって。5段降りた時、気づいた」

 ゲンゴって言語、言葉のことか!

ある種の神秘体験を経て、音楽の真実を知った傳田さんは、脳を変える音楽を生み出す

■ムクダナルズがマクドナルドに聞こえる日本語の限界

「日本には打楽器がないんです。太鼓はあるだろうと言われるでしょうが、西洋の打楽器は小太鼓がわかりやすいけど、響き線というザーッて音を出す線が裏についている。打撃音を生かしているんですよ。日本の楽器は打撃音じゃなくて音の余韻を楽しむ。お寺の鐘はゴーンと鳴らすと後ろにワーンワーンって音がうなる。教会の鐘は金属音でガランガラン鳴ります。まったく違う。この違いは何が原因かというと言語、日本とヨーロッパ言語の違いなんです」

 日本語には子音成分がないと傳田さん。

「マクドナルドは、発音通りならムクダナルズのような表記になる。でも日本人はマクドナルドとカタカナに変えて読む。彼らの発音する子音が聴こえていないからです」

 日本語は演歌と同じで、こぶしを回す。日本人はこぶしのようにうなる音を快適だと感じ、それは言語に由来する。だからムクダナルズがマクドナルドとしか聞き取れないように、西洋音楽の本来の音が「聴こえない」のだ。傳田さんは長年のトレーニングで、奇跡的に脳の機能が組み代わり、西洋の音が聴こえるようになった。だが普通の日本人に西洋音楽は「聴こえない」。それが傳田さんの結論だった。

 傳田さんはそのことを本にまとめるとともに、どうすれば自分のような西洋の音を聞ける耳を作ることができるのか、考え始めた。

「僕が聴いた音を人工的に作れないか。長い間、僕がやってきた音刺激、いろんな音刺激を人工的に作ることができれば、僕が獲得した耳が共有できるはずだと思った」

 コンピュータ音楽が一般に普及し始めた頃で、コンピュータで音刺激を作れると考えた傳田さんは、構想が長かったせいもあり、5年かかって目指す音を作り出した。

まだ生まれたばかりのDTMを使い、傳田さんは独学で日本人の耳を西洋人の耳に変えることに成功した

■驚異の音は言語を超える

 そんな頃、大学の試験のためにピアノ伴奏者を伴ってクラリネットのレッスンを受けに生徒が来た時の事、クラリネットの生徒が「先生、面白い研究してんのよ」って伴奏者に教えるものだから、面倒だと思いながらその子に聴かせることになったわけです。これが原音で、こっちがコンピュータで加工した音、と聞き比べをさせた。そうしたら、」

 えーーすごい! と彼女が悲鳴を上げた。

 音が全部わかるっていう。オーケストラの音でどの楽器がどの音を出して、と聞き分けることは難しいんですよ。メロディーラインと低音は解っても、その中に挟まれた内声を聴き取る事は難しいんです。それが全部わかるっていうんです。疑問に思って「楽譜にできる?」と五線譜を渡したら、見事に五重奏全パートを書いてしまったんです。

「これで出来上がっているのかもと」と、卒業を間近にした二人の生徒用にCDを作って渡し、聴いてみて変化があったら電話してくれと伝えた。すると一週間後、音の立ち上げリがクリアーに聴こえてきました」「音の語尾がぶっきらぼうに聴こえてきました」「抑揚が⋯」。次々と連絡があったのです。何が起きているのか。

「次に何が来るか、想像しているわけですよ。次、こうくるだろうなって。話をしていても、次にこういうことを言うなって予想しているわけです。音楽も想像の中で捉えているわけです。次にこうくる、その想像は国によって変わります。僕らがアメリカ人だったらジャズ。ジャズの耳で聞いてるわけですよ。ジャズだったらこうくるはずだっていう。しかしジャズは英語が作っているんです」

 ワルツならウィーンなのでドイツ系言語、タンゴならアルゼンチンだからポルトガル語から生まれる。日本でクラシックが発生するかといえば、それはありえない。演歌がドイツで発生することもない。

「洋楽は日本語のリズムと違うから、日本人は洋楽が歌えない。日本語が作ってきた音楽っていうのは民謡、それから浪曲、その前は歌舞伎ですよ。ああいうリズムが日本語で歌いやすい。洋楽を日本人が歌えるように変えていったのが演歌ですよ。洋楽が入ってきて、日本の伝統音楽は行き詰った。昭和33年、浪曲師だった三波春夫が初めてバンドをバックに浪曲を歌った。死んだはずだよ、お富さんって。あれが演歌の始まりです」

 音楽は言葉によって規定され、音楽は言葉から生まれ出る。傳田さんが得た耳とは、その文化的な制約から離れ、言語に縛られずに音を聴く耳だった。

■脳のフィルターを解除する新しい音

 音を文化や言葉のフィルターを通さずに生で聞く。それは脳の性質上、ほぼ不可能なはずだ。私たちの脳は無駄を嫌う。無駄とは、新しく脳の神経網を組み替え、フレッシュな組織を作ることだ。それにはエネルギーを使うため、成長期を終えた脳はできるだけ楽をするようになる。

 目耳鼻舌肌の五感から入ってくる情報は、そのままで意識されることはない。過去の情報をできる限り使い、新しい部分を最小にした状態で意識に上る。一度目の感動が二度目にはないのは、記憶と照合し、シンプルに削られた情報しか意識に上らないからだ。反対に子どもの時、役に立つ立たないなど考えることなく、何にでも興味を持ち、何でも覚えられたのは、脳が成長期で神経を成長させる時期だったからだ。

 大人の脳を、もう一度、成長期に戻す。傳田さんが音刺激でやろうとしたのは、それである。脳には可塑性があり、事故で一部分が欠損するとその部分を補うように他の部分が神経網を組み替える。

 脳梗塞で左脳が傷つき、しゃべれなくなる人がいる。左脳には言語を司る部位があるためだ。ところがリハビリを続けると信じられないことが起きる。言葉を生み出す場所が壊れているのに、話せるようになるのだ。

 脳の血流を視覚化する装置を使い、脳の様子を観察すると、言語を司る部位のない右脳に血流が集まっているという。右脳の機能が組み代わり、新たなに言語野を作り出したのだ。

 人間の他の部位で言えば、目が見えなくなったから額の皮膚が変化して目になるとか、耳がなくなったら口の中に耳の機能が移るとか、そういう滅茶苦茶な話である。でもそれが起こるのが脳なのだ。

 傳田さんの作った音楽は、脳に次を予想させない。こう来たらこう来るという音楽の文法を崩し、ステレオ録音の特性を生かして、音が片側からだけ聞こえたり、頭の後ろから聞こえたりする。デジタルのノイズも入り、元のクラシック音楽がズタズタにされている。

 傳田さんの音を聞くと、およそ40秒で脳は予測することをやめるのだそうだ。そしてフィルターを解除する。まったく未知のリズムの未知の音として、傳田さんが手を加えた交響曲を聞く。するとフィルターのない子どもの脳の状態に一時的に戻る。脳は全身をコントロールしているので、その脳がいわば若返ることで、全身にポジティブな影響が出る。

「健康面でも劇的な変化が起きるんですよ。女性特有なトラブルや、また鼻水が止まったり、良い影響が見られることもある。自閉症や学習障害などの子どもたちにも、一定の効果が期待できる。脳梗塞もリハビリの時に使うと回復が早いケースもある」

 というわけで、論より証拠、その音楽を聞かせてもらった。試聴用の音楽は13分間。フルでは40分だ。

 簡単なガンダンスが流れた後、クラシックが3回流れる。1回目は加工なしの原曲。2回目が加工された曲。3回目が再び原曲。

 聞いてるうちに体がリラックスしてくる。角さんはどうだろうか? 角さん、どう?

「おもしろ~い! 体がポカポカしません?」と角さん。たしかに手足の末端が温かく感じる

「面白いですね。聞いてるうちに体がリラックスしてくる」

 だよね。気持ちいいよね。

「今まで気づかなかったことに気づくようになるかも。なんか若干、光が違って見える。光量が多くなったみたい。世界が全然違いますよ」

 そう? そこまで違う?

「菊名がこんなに素晴らしい場所だとは」

 おい。

 試聴の間、外に出ていた傳田さんが戻ってきた。

「傳田さんのお話って、全然スピリチュアルな人の話し方ではないですね」と角さん。「あくまで音楽家として接していらっしゃる」

 傳田さんが、顔がさっきと違うよと言うので、角さんを見ると、なるほど目が大きく開いている。光量が増えるというのはそういうことなのか?

 脳内物質の変化や脳の血流の変化を東邦大で測定したデータを見せてもらうと、短時間で劇的な変化が起きている。音の刺激で脳は本当に変わるのだ。

「ペットに聞かせるとね、ヘッドホンをしたままじっとしている。ネコなんかも寄ってくる」

 動物に効くのなら本当だろう。音が脳を変え、健康になる。音の聞き方を変え、世界の見え方を変える。そんな不思議な技術があるのだ。

 

■傳田 文夫 (でんだ ふみお)
傳田聴覚システム研究所所長。洗足学園大学音楽学部クラリネット講師として、長年音楽教育に携わりながら、多くの演奏会を開催。1997年に聴覚に関する特許を出願、2001年に 株式会社 傳田聴覚システム研究所を設立。以降、数々の製品を販売する。

■角由紀子(すみ ゆきこ)
オカルト編集者/タレント。元トカナ編集長。現在、オカルト情報の識者として、ネットに映画にテレビにと縦横無尽、八面六臂の活躍中。
角由紀子のヤバい帝国(YouTube)
https://www.youtube.com/@yabaiteikoku/videos

「体がずっと温かいんですよ」と角さん。角さんには1カ月ほど聞いてもらい、どんな効果があるのか、レポートしてもらう。乞うご期待。

傳田聴覚システムの商品はこちらで購入できます
https://store.tocana.jp/items/91311018

傳田聴覚システムの体験は神奈川県・菊名の傳田聴覚システム研究所で予約可能です。HPからメールまたは電話で予約してください。

<体験希望者はこちらから↓>
傳田聴覚システム研究所
https://www.denchoh.com/

文=久野友萬

サイエンスライター。1966年生まれ。福岡県出身。
近著『ヤバめの科学チートマニュアル』(新紀元社)

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