ディアトロフ峠事件では何が起きた?“死の山”で9人の学生を襲ったのは本当に雪崩なのか

画像は「Wikipedia」より

 1959年1月、冷戦真っただ中、ウラル工科大学の9人の学生がウラル山脈へ登山に出かけた。彼らは経験豊富な登山家でありスキーヤーだったが、そこで彼らを待ち受けていた悲劇を予期する者はいなかった。ディアトロフ峠事件は、今もなお多くの謎に包まれた不可解で不気味な事件である―――。

オトルテンを目指した登山旅行:ディアトロフ峠事件の始まり

 彼らの目標は、オトルテン山へ到達することで、総距離約320キロの冒険となるはずだった。

 2月1日、一行はホラート・シャフイル山の斜面にテントを設営した。この山の名前は、マンシ語で「死の山」を意味する。数週間後、大学と家族が捜索を開始したが、彼らは生きて発見されることはなかった。テントに残された日記とカメラのフィルムは、彼らの最後の瞬間の手がかりとなっている。

不可解な死因:テントの異様な状態と遺体の状況

 数週間後、捜索隊は、彼らのテントが押しつぶされ、遺体が周囲に散乱しているのを発見した。7人の男性と2人の女性は皆、不可解な最後を遂げていた。公式な死因は「未知の抗力」および「自然発生的な自然の力」とされている。

 まるで車に轢かれたような衝撃を受けた者もいたが、外傷は見られなかった。彼らの足跡だけが発見され、動物や侵入者の痕跡はなかった。足跡の間隔から、彼らは通常のペースで歩いていたことが示唆されている。

遺体の発見と不可解な手がかり:オレンジ色の肌と放射性物質

 すべての遺体が発見されるまで、2ヶ月以上かかった。まず、摂氏マイナス40度の極寒の中、2人の遺体が杉の木の近くで下着姿で発見された。一部の遺体は、他の者の服を身に着けていた。数日後、さらに遺体が発見されたが、衣服の着用状況は様々だった。さらに奇妙なことに、内臓破裂、肋骨骨折、皮膚の変色といった説明のつかない怪我を負っていた。2か月後、気温が上昇するにつれて、最後の遺体が雪の下4メートルに埋もれた状態で発見された。

 テントを発見した学生は、「テントは半分破れて雪に覆われていた。中は空っぽで、グループの持ち物と靴はすべて残されていた」と述べている。キャンプ用コンロは組み立てられていないままで、使われた形跡はなかった。

 未知の力が、胸部と頭蓋骨に大きな損傷を与えたとされている。2人の遺体からは目がなく、1人からは舌と唇がなくなっていた。奇妙なことに、一部の衣服には放射性物質が付着していた。葬儀では、遺族は遺体の皮膚がオレンジ色に変色し、髪が灰色になっていることに気づいたという。

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墜落事故? KGBの秘密兵器? 憶測が飛び交うディアトロフ峠事件の真相

 事件以来、様々な説が飛び交っている。宇宙人による襲撃、小規模な雪崩、強いカタバ風(滑降風)、KGBの秘密兵器実験、イエティによる襲撃、殺人事件のもみ消しなど、その内容は多岐にわたる。

 2019年、事件から60周年を迎えたことを機に、テレビ番組「Expedition Unknown」でこの事件が特集された。司会のジョシュ・ゲイツは、ソ連の捜査官が2月6日には9人の学生たちの死を知っていたことを示す文書について議論している。しかし、テントが発見されたのは2月26日だったとされている。ナショナルジオグラフィックによると、「ソ連の官僚主義がこの事件を隠蔽していた」という。最近になって、ロシア当局は事件の再調査を開始した。

再調査の結果:雪崩と視界不良、しかし残された疑問

 2019年に事件を再調査したロシア当局は、謎の死の原因は雪崩と視界不良であると結論づけた。雪崩によって「一行はテントから近くの尾根の下に避難することを余儀なくされた。視界不良のため、テントに戻ることができなかった」という。

「それは英雄的な闘争だった。パニックはなかった。しかし、当時の状況下では、彼らは自分たちを救う術がなかった」と地方検察庁副長官のアンドレイ・クリアコフは述べている。「雪崩についての解釈は完全に裏付けられたが、それが彼らの死の唯一の原因ではなかった」と彼は続けた。

イメージ画像 Created with DALL·E

 雪崩でテントから避難した後、彼らは近くの山の尾根に集まった。そこから、数人がテントに戻ろうとしたが、道に迷い、凍死したと公式報告書は述べている。しかし、なぜ彼らは衣服を脱いでいたのか、何が大規模な内臓損傷を引き起こしたのかなど、多くの疑問が残っている。雪崩であれば、典型的な死因は窒息死のはずである。

 雪崩が起きたとされているにもかかわらず、テントは雪から突き出た状態で地表近くにあり、現場には雪崩の兆候はなかった。米ニュースサイトHeavyによると、「事件以来、この地域への100回以上の探検で、雪崩を引き起こすような状況を報告した者はいない」という。

最新の研究:コンピューターモデルによる雪崩シミュレーション

 62年後、科学者たちはディアトロフ峠事件の新たな説明を提示している。ナショナルジオグラフィックは、コンピューターモデルを使って雪崩シミュレーションを行った結果、科学的に説明がつく可能性があると示唆している。奇妙なことに、モデルは映画『アナと雪の女王』のアニメーションと自動車衝突実験を使用している。

 2人のスイス人研究者は、わずか5メートル幅の小さな雪崩でも、犠牲者に見られたような外傷を引き起こす可能性があることを発見した。

「研究者たちのコンピューターモデルは、このユニークな状況下では、5メートル長の大きな雪の塊が、硬いベッドで寝ている人々の肋骨と頭蓋骨を簡単に骨折させる可能性があることを示した。これらの怪我は重傷だっただろうが、致命的ではなかった。少なくともすぐには」とナショナルジオグラフィックは報告している。

 つまり、登山家たちが寝ている間に、高速で移動する雪の塊が彼らを襲ったのだ。3人が雪崩で重傷を負い、他のメンバーは彼らを安全な場所に移動させようとした。しかし、暗闇の中で迷子になった彼らには、生き残るチャンスがなかったのだ。

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放射性物質と矛盾脱衣:残された謎への考察

 さらに、犠牲者たちの衣服が脱げていたのは、矛盾脱衣(低体温症による異常行動で衣服を脱いでしまう現象)による可能性もある。放射性物質が付着した衣服は、トリウムを含むキャンプ用ランタンが原因である可能性もある。また、動物が遺体を漁ったことで目や舌がなくなっていたのかもしれない。

 経験豊富な9人の学生たちは異常な雪崩に不意を突かれたのか。一見穏やかな斜面が危険な状態になっているとは気づかなかったのかもしれない。

 彼らの死因は小さな雪崩だったのだろうか? この研究に関わった研究者の一人、アレクサンダー・プズリン氏は、「これは勇気と友情の物語です」と述べている。

 ディアトロフ峠事件については未解決の謎が多いものの、科学的なアプローチによって少しずつ真実に近づいていると言えるかもしれない。

参考:The Ancient Code、ほか

TOCANA編集部

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