人類の宇宙進出の陰で… 忘れられた英雄チンパンジー「ハム」の栄光と孤独の物語

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“宇宙飛行士”として育てられたチンパンジーの末路とは――。宇宙開発の歴史に輝かしい功績を残しながらも晩年は孤独な境遇を余儀なくされた“宇宙飛行チンパンジー”のストーリーに哀悼の意を捧げざるを得ない。

■宇宙飛行チンパンジーの栄光と孤独な晩年

 米ソ冷戦下の1960年代初頭、宇宙開発競争が本格化する中、思いもよらぬヒーローが誕生した。

 ハムと名づけられたチンパンジーは1957年7月、西アフリカのフランス領カメルーンの森で生まれ、1959年、2歳の時に米ニューメキシコ州のホロマン空軍基地に連れて来られた。そこでハムは宇宙飛行チンパンジーとなるべく訓練を受けることになる。

 賢くて好奇心旺盛なハムは、簡単な作業をすぐに覚えた。たとえば青い光が点滅するたびにカプセル内のスイッチを押すようにハムを学習させ、正解するとバナナが一切れ与えられ、間違えると足の裏に軽い電気ショックが流された。目的は、大気圏外の微小重力下で類人猿が基本的なシステムを操作できるかどうかをテストすることであった。

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NASA提供(パブリックドメイン)

 1961年1月31日、ハムは「マーキュリー・レッドストーン・ロケット」に乗せられ、フロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられた。「MR-2」と呼ばれるこのミッションでは、高度185㎞まで時速7081㎞で到達する予定だった。しかし、技術的な問題により、ロケットは高度252kmまで上昇してしまい、時速9425kmという驚異的な速度まで加速した。カプセルは制御不能となり、ハムは予定地点から711キロ離れた大西洋上の、配置されていた救助船から97キロ離れた場所に着水した。

 16分半の飛行中、ハムは6.6分間の無重力状態を体験した。混乱した状況下でも、彼は軽い刺激に反応しながら、ロケットのカプセル内で正確に課題を遂行していた。救出後の医療検査で、ハムは軽い脱水症状と疲労感があったものの、体調には何の問題もなかった。このハムの功績により貴重なデータがいくつも得られたことで、このわずか4カ月後の1961年5月5日に、宇宙飛行士アラン・シェパードがアメリカ人として初めて宇宙に到達したのだ。

 しかし、残念ながらこの宇宙飛行ミッション後のハムの生涯はそれほど栄光に満ちたものではなかった。

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 1963年、ハムは宇宙飛行士を“退官”し、ワシントン動物園に移送されてほのチンパンジーたちとゆっくり普通の暮らしを送るように取り計られたのだが、園内でハムはグループと交流することなく孤立していた。幼少期から人間たちと過ごしてきたハムはほかのチンパンジーとうまくコミュニケーションができなくなっていたのかもしれない。

 17年後の1980年、彼はノースカロライナ州のアッシュボロ動物園に送られ、1983年1月に25歳で亡くなった。飼育されているチンパンジーとしてはかなり早死だが、患っていた慢性の心臓病と肝臓病のためであるともいわれている。

 彼の遺体は解剖され、骨格は軍事病理学研究所に寄贈、残る遺体はニューメキシコ州の国際宇宙殿堂の外に埋葬された。

 宇宙開発においてハムのような動物たちはロケット内の生命維持システムをテストし、宇宙放射線の危険性を評価し、無重力環境でも生物が機能できることを証明した。 NASAはこれらの実験がなければ、初期の有人ミッションは致命的な失敗に陥っていただろうと述べている。

 これらの“英雄”の多くは忘れ去られているが、彼らの貢献は歴史に残っており、人類が宇宙に到達するまでの重要なステップとして記憶されている。宇宙開発における貴重な功績をあげたハムに哀悼の意を表したい。

参考:「Misterios do Mundo」、「Wikipedia」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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