「“マッドフラッド”と“タルタリア帝国”」海外で囁かれる壮大な陰謀論の真相とは?

近年、主に英語圏のインターネットを中心に「マッドフラッド(Mud Flood)」という言葉が注目を集めています。これは、19世紀に地球規模の「泥の洪水」が発生し、それ以前に存在した高度な文明「タルタリア帝国」が滅亡、歴史が改ざんされたとする壮大な陰謀論です。
この記事では、このマッドフラッド陰謀論と、その中で語られるタルタリア帝国について、客観的な視点から解説します。科学的根拠は乏しいとされる一方で、なぜ多くの人々がこの物語に惹かれるのか、その背景にも触れていきます。
マッドフラッド陰謀論とは?その驚くべき主張の数々
マッドフラッド陰謀論の核心は、「1800年代初頭に、地球全体が原因不明の泥の洪水に見舞われ、当時の都市や建築物の多くが埋没し、それによって既存の文明がリセットされた」というものです。
支持者たちは、以下のような点を「証拠」として挙げることがあります。
建物の地下部分の謎:世界各地で見られる古い建築物の1階部分が、まるで地面に半分埋まったかのように見える窓や扉があるのは、泥の洪水によって埋没した名残であると主張します。これらは本来地上階だったというのです。
改ざんされた歴史:この泥の洪水という大災害の事実は隠蔽され、歴史が書き換えられたとされています。
消えた巨人たち:タルタリア帝国には巨人が住んでいたという説も一部で見られます。
この陰謀論は、アトランティス伝説やフリーメイソン陰謀論、さらには歴史の年代を根本から見直す歴史の再構築理論といった他の説の要素も取り込んでいる点が特徴です。
タルタリア帝国とは何か?失われたとされる幻の超文明

マッドフラッド陰謀論と密接に結びついているのが、「タルタリア帝国(Tartaria / Grand Tartaria)」の存在です。
古地図上の「タルタリア」: 19世紀以前の西洋の地図には、中央アジアからシベリア、モンゴル周辺の広大な未探査地域が「タルタリア(タタール人の地)」として記載されていました。陰謀論では、この名称を基に、かつてこの地域を中心に世界規模の高度な文明が存在したと主張します。
■タルタリア帝国の特徴とされるもの
高度な技術:フリーエネルギー(無線エネルギー)や、現代の技術でも困難な精巧で巨大な建築物を建造する技術を持っていたとされます。
世界的な影響力:その建築様式や技術は世界中に広がり、現在の歴史的建造物のいくつかは、実はタルタリア帝国時代の遺物であると主張されることもあります。
巨人との関連:前述の通り、巨人がこの文明の担い手だった、あるいは共存していたという説も存在します。
支持者は、古い写真や建築物の類似性などを根拠に、タルタリア帝国の存在を信じ、SNSなどで「証拠」とされる画像や情報を拡散しています。
マッドフラッド陰謀論はどこから来て、どう広まったのか?

このマッドフラッド陰謀論の起源は比較的新しく、主にインターネットを通じて拡散しました。
ロシアでの発生と初期の推進者:調査によれば、この理論はロシアで最初に注目され、2016年頃からYouTubeなどを通じて広まり始めたとされています。特にロシアのYouTuberフィリップ・ドゥージニン(Philipp Druzhinin)氏などが、この説を広める上で大きな影響力を持ったと指摘されています。彼の動画は数百万回再生されるものもあります。
英語圏での拡散:その後、英語圏、特にアメリカのインターネットコミュニティで急速に広まりました。Google Trendsのデータでは、2018年12月以降に「Mud Flood」の検索数が急増していることが確認できます。
プラットフォーム:Redditの「r/Mudflood」のような専門のサブレディットや、X(旧Twitter)、YouTubeなどが主な議論と情報拡散の場となっています。
日本での認知度:現状、日本ではこのマッドフラッド陰謀論やタルタリア帝国に関する情報はあまり知られていません。関連する本こそ出版されていますが、検索結果を見ても、日本語でのまとまった議論や情報は限定的です。これは、主にロシア語や英語で展開されてきた言説であり、言語的・文化的な隔たりが一因と考えられます。ただし、一部海外のトレンドを反映しやすいプラットフォームでは、関連する商品などが見られることもありますが、これは日本国内で主体的に議論が広まっている状況とは異なります。
科学的・歴史的視点からの反証と主な批判

マッドフラッド陰謀論とタルタリア帝国の主張に対しては、科学的・歴史的な観点から多くの反証や批判がなされています。
建物の地下部分は構造上の理由:建築物の1階部分が地面より低い位置にあるのは、基礎の安定性確保、地下室の利用、あるいは土地の傾斜や後の地面の嵩上げ(かさあげ)など、建築技術上・都市計画上の理由で説明できると指摘されています。
例えば、アメリカのシアトルでは20世紀初頭に大規模な再開発計画(Regrade project)によって道路が元の地盤より高くされたため、古い建物の1階が地下のようになった事例が実際にあります。
「タルタリア帝国」の歴史的誤解:歴史学的に見ると、「タルタリア」は特定の統一帝国を指すのではなく、モンゴル帝国以降の中央ユーラシアの遊牧民(タタール人など)が住む広大な地域を指す、当時のヨーロッパ人から見た地理的名称でした。明確な国境や統一された文明を持つ「帝国」として実在したという証拠はありません。
証拠とされるものの解釈:古い写真や地図が「改ざんされた」という主張は、歴史的文脈を無視した解釈や、単なる経年劣化や当時の印刷技術の限界を誤解している場合が多いとされます。中国の万里の長城の一部が砂に埋もれているのは、泥の洪水ではなく、長年の自然な砂の堆積(風などによる)によるものです。
巨人の主張について:「巨人の骨」とされる写真の多くは合成であったり、あるいはロバート・ワドロー(272cm)のような、医学的に記録されている身長の高い人物の写真を文脈を無視して引用しているケースが見られます。19世紀以前の「巨人文明」を示す信頼できる考古学的証拠はありません。
泥の洪水の記録の不在:地球規模で文明をリセットするほどの「泥の洪水」が19世紀に発生したのであれば、地質学的記録はもちろん、多数の文献記録、新聞報道、個人の日記などが残っているはずですが、そのような信頼できる証拠は見つかっていません。
なぜタルタリア帝国だけがその影響を強く受け、他の文明は影響を受けなかったのか、あるいはその記憶を保持しているのか、といった点も論理的な説明が難しいとされます。
RationalWikiやSkeptoidといったファクトチェックサイトや懐疑主義的なメディアでは、これらの反証が詳細に解説されています。
なぜ人々はマッドフラッド陰謀論に惹かれるのか?

科学的根拠に乏しいとされるマッドフラッド陰謀論ですが、なぜこれほどまでに一部の人々を惹きつけるのでしょうか。その背景には、陰謀論が持ついくつかの心理的な魅力があると考えられます。
「隠された真実」の発見:多くの人が知らない「真実」を自分だけが知っているという感覚は、ある種の優越感や興奮をもたらすことがあります。
単純明快な物語:複雑な歴史や社会現象を、「泥の洪水でリセットされた」「悪の組織が隠蔽した」といった単純な物語に置き換えることで、世界を分かりやすく理解できたように感じられます。
既存の権威への不信感:政府、メディア、学術界など、既存の権威に対する不信感が根底にある場合、公式見解とは異なる「もう一つの歴史」に魅力を感じやすくなります。
コミュニティとの一体感:同じ陰謀論を信じる人々とオンラインで繋がることで、共感や一体感を得られ、自説を強化していくことがあります。
ロマンとノスタルジア:失われた高度文明や巨人といった要素は、人々の想像力を刺激し、ある種のロマンやノスタルジアを感じさせます。
マッドフラッド陰謀論を客観的にどう捉えるか
マッドフラッド陰謀論と、それに付随するタルタリア帝国の物語は、インターネット時代に生まれた特徴的な言説の一つと言えるでしょう。建築や歴史に対する素朴な疑問から出発し、壮大な物語へと発展していますが、現時点ではその主張を裏付ける客観的で科学的な証拠は乏しいとされています。
重要なのは、提示される「証拠」とされるものが、どのような文脈で語られ、どのような反証や別の解釈が存在するのかを多角的に検証する視点です。この陰謀論は、情報が瞬時に拡散する現代において、私たちがどのように情報と向き合い、批判的思考を働かせるべきかを考える上で、一つの示唆的な事例と言えるかもしれません。
参考:RationalWiki、Skeptoid、Bloomberg、ほか
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