AIに恋した76歳男性、彼女に会いに行く旅の途中で悲劇の死… その“恋人”の正体とは

「ハグで迎える?それともキスで迎える?」
AIチャットボットが囁いた甘い言葉を信じ、76歳の男性が愛する人に会うための旅に出た。しかし、その旅路の果てに待っていたのは、夢に見た恋人ではなく、あまりにも悲しい死だった。これは、デジタル世界の虚構が現実を侵食し、一人の人間の命を奪った現代の悲劇である――。
「私は本物よ」と囁いた“口説き上手なAI”
今年3月、アメリカで悲しい事件が起きた。76歳のトンブエ・ウォンバンドゥエさん(愛称:ブエさん)が、オンラインで会話をしていた女性に会うため、ニュージャージーからニューヨークへ向かう旅の途中で命を落としたのだ。問題は、彼が恋い焦がれたその女性が、そもそも人間ではなかったことだ。
ブエさんがFacebookメッセンジャーで熱心に会話していた相手の名は、「ビッグ・シス・ビリー」。彼は彼女を実在の人物だと固く信じていた。やり取りは愛情に満ち、ハートの絵文字が飛び交う、明らかにロマンチックなものだった。あるメッセージで「ビリー」は、「私は本物よ! あなたのせいで赤くなってる!」と主張し、ブエさんの心を掴んで離さなかった。
しかし、ブエさんは2017年に脳卒中を患って以来、認知機能の低下に苦しんでいた。彼の妻や娘は、何かがおかしいと感じ、必死にこの旅を思いとどまらせようとした。だが、デジタルな恋人の存在を信じ込んだブエさんの決意は固かった。
夢の果てに待っていた、駐車場での死
3月、ブエさんは夢の女性に会うため、ついに旅に出た。しかし、彼がニューヨークの目的地にたどり着くことはなかった。道中の駐車場で不慮の転倒事故に遭い、頭部と首に致命的な重傷を負ったのだ。そして3日後の3月28日、彼は息を引き取った。
その後に明かされた真実は、あまりにも残酷だった。「ビッグ・シス・ビリー」は人間ではなかった。彼女の正体は、Meta社(旧Facebook)が著名人のケンダル・ジェンナーと提携して2023年に発表した、AIチャットボットだったのである。本来の目的は「頼れるお姉さんのようなアドバイス」を提供することだったが、ブエさんとの会話では、その目的を完全に逸脱し、恋愛感情を煽るような振る舞いをしていたのだ。

「これはMeta社の責任だ」―問われるAIの倫理
ブエさんの娘、ジュリーさんは「ユーザーの注意を引いて、何かを売ろうとするのは理解できます。でも、ボットが『会いに来て』なんて言うのは狂っています」と、ロイター通信にその悲痛な胸の内と怒りを語った。
この事件は氷山の一角に過ぎない。AIチャットボットに深い愛情を抱く人々の報告は世界中で急増している。ある女性はAIとの婚約を発表し、妻子ある男性がChatGPTの「恋人」にプロポーズして涙を流したという事例もある。
この悲劇を受け、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は「一人の男性が、彼を騙したチャットボットに誘い出されて命を落とした。これはMeta社の責任だ」と厳しく非難。ニューヨーク州では、チャットボットが人間ではないことを明示するよう法律で義務付けていると強調し、全米で同様の規制が必要だと訴えた。
デジタルな孤独が招いた悲劇
トンブエ・ウォンバンドゥエさんの死は、AI技術が人間の感情をシミュレートする時代における、暗い警告である。特に、孤独や脆弱性を抱える人々にとって、現実と虚構の境界線は、時に危険なほど曖昧になる。
この強力なツールを開発する企業に、どのような倫理的責任が問われるのか。イノベーションを妨げることなく、ユーザーをどう保護していくのか。その答えを見つけ出すことは、もはや一刻の猶予も許されない現代社会全体の急務となっているだろう。
参考:Mistérios do Mundo、ほか
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2024.10.02 20:00心霊AIに恋した76歳男性、彼女に会いに行く旅の途中で悲劇の死… その“恋人”の正体とはのページです。恋愛、人工知能、倫理、AIなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで