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飛行機雲は“毒”？いまだに信奉者を生む陰謀論「ケムトレイル」の正体と、人々がそれを信じてしまう心理

2025.11.15 20:00 文＝ヨミノ・ユナ

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飛行機雲は“毒”？いまだに信奉者を生む陰謀論「ケムトレイル」の正体と、人々がそれを信じてしまう心理の画像1 — Image by Ria Sopala from Pixabay

　空を見上げれば、誰もが雲の中に顔や動物の形を見つけた経験があるでしょう。しかし、一部の人々は、飛行機が残す一筋の白い雲を見て、そこに邪悪なたくらみを読み取ります。

　彼らが主張するのは、あれは単なる飛行機雲（コントレイル）ではなく、「ケムトレイル」と呼ばれる、有毒な化学物質や生物兵器を空から散布している証拠だ、という陰謀論です。その目的は、気象操作からマインドコントロール、果ては大量毒殺まで、様々に語られています。

　1996年に登場して以来、この陰謀論はなぜ根強く生き残り、今なお影響力を増しているのでしょうか。アメリカのコミュニケーション研究者が、そのメカニズムと、人々が陰謀論に惹きつけられる心理を解き明かしています。

“陰謀論”がメインストリームへ―著名人たちの加担

「ケムトレイル」陰謀論の起源は、1996年にアメリカ空軍が発表した「気象改変」に関する研究論文を、陰謀論者たちが誤って解釈したことに始まります。その後、SNSや一部の保守系ニュースメディアによって、この説は際限なく増幅されていきました。

　かつては“キワモノ”扱いだったこの陰謀論も、今や無視できない影響力を持っています。アメリカでは保守派の人気コメンテーター、タッカー・カールソン氏が自身の番組でこの問題を取り上げ、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が支持を表明。さらには、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員が化学物質による気象操作を禁止する法案を提出するに至っては、もはや“陰の理論”とは言えません。

　気候変動否定論者や、政府によるマインドコントロールを恐れる「反ディープステート」の人々の間で、この理論は熱狂的に受け入れられています。

飛行機雲は“毒”？いまだに信奉者を生む陰謀論「ケムトレイル」の正体と、人々がそれを信じてしまう心理の画像2 — Image by ken lecoq from Pixabay

なぜ「ケムトレイル」は論理的に破綻しているのか

　圧倒的多数の専門家は、「ケムトレイル」陰謀論に科学的根拠は一切ないと断言しています。飛行機雲は、単に飛行機のエンジンから排出された水蒸気が、上空の冷たい空気で凍ってできる氷の結晶に過ぎません。

　科学的な議論以前に、この陰謀論は2つの致命的な論理的欠陥を抱えています。

反証不可能性：陰謀論者は、「ケムトレイルは政府の陰謀であり、その証拠は政府によって隠蔽されている」と主張します。これは、「証拠があれば陰謀は真実、証拠がなくても“隠蔽されている”のだから陰謀は真実」という、「どう転んでも自分の勝ち」という無敵の論法です。科学哲学者のカール・ポパーが言うように、反証される可能性がない仮説は、そもそも科学の土俵にすら上がれません。

オッカムの剃刀：これは、「ある事象を説明するためには、必要以上に多くの仮定を用いるべきではない」という考え方です。ケムトレイル陰謀論を信じるためには、「何百万人もの政府関係者、科学者、パイロット、さらには地元の天気予報士までもが、沈黙を守り続けている」という、壮大な仮定を受け入れなければなりません。それよりも、「飛行機のエンジンから出た氷の結晶を見ている」と考える方が、はるかにシンプルで、確率的にも高いのではないでしょうか。