中東情勢の裏側で何が起きているのか ― 革命防衛隊とモサドが繰り広げる“見えない戦争”
中東情勢の裏側で何が起きているのか ― 革命防衛隊とモサドが繰り広げる“見えない戦争”

X(旧Twitter)のスペースで不定期に配信されているトーク企画「ばけたん社長のよもやま話」。先日行われた配信では、翻訳家であり中東情勢に詳しいジャーナリストのタカ大丸氏をゲストに迎え、現在の中東情勢やイラン革命、さらにはモサドや革命防衛隊といった諜報戦の実態まで、かなり踏み込んだ議論が展開された。
ニュースでは断片的にしか報じられない中東の問題だが、その裏側では国家同士の“見えない戦争”とも言える情報戦が続いているという。
今回は、そのスペースで語られた内容の中から、イラン革命の背景、革命防衛隊の役割、核開発をめぐる諜報戦など、特に興味深いポイントを抜粋して紹介する。
まず、中東情勢を理解するうえで欠かせない出来事から見ていこう。
すべては「イラン革命」から始まった
現在の中東情勢を理解するうえで、避けて通れない出来事がある。1979年のイラン革命だ。
現在のイランは、厳格なイスラム体制の国家として知られている。しかし革命以前のイランは、今とはまったく異なる社会だった。女性がヒジャブを着用せずに街を歩く姿も珍しくなく、都市部では西洋風の服装が一般的だったという。いわば、かなり西洋化の進んだ社会だった。
当時のイランはパフラヴィー朝の王制国家で、国王は「シャー」と呼ばれていた。シャーは西洋で教育を受けた人物で、アメリカとの関係も深く、政治や社会の近代化を進めていた。一方で、その急速な西洋化に対して国内では反発も強まり、貧富の格差や政治体制への不満も広がっていった。

こうした状況の中で台頭したのが、後に革命の指導者となるルーホッラー・ホメイニである。ホメイニは当時フランスに亡命していたが、彼の説教を録音したカセットテープがイラン国内で広まり、人々の間で支持を集めていったといわれている。
そして1979年、ついに王制は崩壊し、ホメイニを最高指導者とする新たな体制が誕生する。これがイラン革命だ。

タカ大丸氏は、この出来事を非常に象徴的な言葉で説明する。
「ものすごく単純に言えば、1979年に国が悪魔に乗っ取られた、ということです」
革命後のイランでは、政治と宗教が強く結びついた体制が築かれた。イスラム法を基盤とした統治が行われるようになり、社会のあり方も大きく変化していく。
現在の中東情勢を語るうえで、このイラン革命は単なる国内の政変ではない。むしろ、その後の地域政治や国際関係にも大きな影響を与え続けている出来事だといえるだろう。
タカ氏もまた、「現在の中東の構造を理解するためには、まずイラン革命を知る必要がある」と指摘している。
革命防衛隊という特殊な組織
イラン革命の後、新体制の中で誕生した組織のひとつが革命防衛隊(IRGC:イスラム革命防衛隊)である。現在のイランを理解するうえで、この組織の存在は欠かせない。

一般的に軍隊といえば、国家を外敵から守るための組織を指す。しかし革命防衛隊は、その成り立ちからして少し性格が異なる。
タカ大丸氏は、この点をこう説明する。
「革命防衛隊という名前の通り、彼らが守ろうとしているのは国家というよりも“イスラム革命そのもの”なんです」
実際、英語名の「Islamic Revolutionary Guard Corps」を見ると、そこには「イラン」という国名は含まれていない。あくまで“イスラム革命”を守る組織という位置づけなのだ。
革命防衛隊は、イランの通常の軍とは別の存在として設立された。革命体制を守るための組織として強い権限を持ち、軍事力だけでなく政治や経済にも大きな影響力を持つといわれている。
さらに、この組織の特徴は国内だけにとどまらない。
タカ氏によれば、革命防衛隊は中東各地の武装組織とも関係が深いとされる。例えばレバノンのヒズボラなどは、革命防衛隊の支援を受けて成長してきたと指摘されることも多い。
つまり、革命防衛隊は単なる軍事組織というより、イラン革命の思想や影響力を国外に広げる役割も担っていると見られているのだ。
こうした点についてタカ氏は、次のように語る。
「国家を守る軍隊ではなく、“革命を維持し、テロを輸出する組織”と考えると分かりやすいと思います」
イラン革命によって誕生した体制は、この革命防衛隊という特殊な組織によって支えられてきた。現在の中東情勢を理解するうえで、この存在は無視できない要素のひとつだろう。
世界で起きてきた“影の戦争”
イラン革命後、中東の政治構造は大きく変化したが、その影響は中東地域だけにとどまらない。革命体制をめぐる対立は、時に世界各地で思いがけない形で現れてきた。
象徴的な出来事のひとつとして知られるのが、1989年に発表された小説『悪魔の詩』をめぐる事件だ。イギリスの作家サルマン・ラシュディによるこの作品は、イスラム教を冒涜しているとして大きな論争を呼んだ。

当時のイラン最高指導者ホメイニは、この作品に対して強い非難を表明し、ラシュディに死刑宣告する「ファトワー(宗教的宣告)」を出したことで世界的な問題となった。
この事件は文学をめぐる論争にとどまらず、各国に波紋を広げていく。そして日本でも、その影響を受けたとされる衝撃的な事件が起きた。
『悪魔の詩』の日本語訳に関わっていた筑波大学の助教授、五十嵐一氏が1991年に殺害されたのである。犯人は現在も特定されておらず、事件は未解決のままだ。
タカ大丸氏は、この出来事について次のように語る。
「中東の政治や宗教の問題は、遠い地域の出来事のように思われがちですが、実際には世界中に影響が及ぶことがあります」
実際、中東情勢をめぐっては、暗殺やテロ、諜報活動などが各地で報じられてきた。国家同士の対立は、必ずしも正面からの軍事衝突だけで展開されるわけではない。時には表に出ない形で、長い時間をかけて続く“影の戦争”として現れることもある。
こうした出来事は断片的にしか報じられないことが多く、背景を理解するのは簡単ではない。しかしタカ氏は、「現在の中東情勢を理解するためには、こうした歴史的な出来事も含めて見ていく必要がある」と指摘している。

核開発をめぐる諜報戦
近年の中東情勢で、特に国際社会の関心を集めているのがイランの核開発問題だ。イランは一貫して原子力開発の目的は「平和利用」であると主張しているが、欧米諸国やイスラエルは核兵器開発につながる可能性を強く警戒してきた。
タカ大丸氏によれば、この問題をめぐっては、軍事衝突だけでなく水面下での諜報活動も激しく行われてきたという。
その背景のひとつとして挙げられるのが、ウラン濃縮の問題だ。原子力発電に使用されるウランの濃縮度は通常3〜5%程度とされるが、イランの濃縮度はそれを大きく上回る水準である60%に達しているとIAEAが断定した。
「原子力発電だけが目的であれば、そこまで高い濃縮度は必要ないと言われています」タカ氏はそう指摘する。
そのためイスラエルなどは、イランの核開発が最終的に核兵器へとつながる可能性を懸念してきた。こうした疑念を背景に、イランの核関連施設や研究者をめぐるさまざまな事件が報じられている。
特に注目を集めたのが、核開発に関わる科学者が相次いで暗殺された事件だ。2010年代以降、イランでは複数の核物理学者が爆発や銃撃によって命を落としている。イスラエルの関与が指摘されることも多いが、公式に認められたケースはほとんどない。
ただ、こうした出来事を見ていくと、核開発をめぐる対立が単なる外交問題ではなく、情報戦や秘密工作を含む複雑な構図の中で展開されていることがうかがえる。
タカ氏は、この状況について次のように語る。
「国家同士の対立というのは、必ずしも表の戦争だけで起きるわけではありません。スパイ活動や暗殺など、表に出ない形で続いている部分も大きいんです」
イランの核開発問題は、単なる技術やエネルギー政策の問題ではない。そこには各国の安全保障や諜報活動が複雑に絡み合い、長年にわたる“見えない戦争”が続いているとも言えるだろう。
モサドと情報戦のリアル
イランの核開発をめぐる対立を語るとき、しばしば名前が挙がるのがイスラエルの情報機関モサド(Mossad)だ。世界でも屈指の諜報機関として知られ、国外での情報収集や秘密工作を担う組織とされている。

その活動の詳細は当然ながら公にはされていない。しかし、これまで報じられてきたさまざまな出来事を見ると、中東情勢の裏側では高度な情報戦が繰り広げられていることがうかがえる。
例えば、イランの核開発に関わる科学者が相次いで暗殺された事件では、標的の居場所や行動が非常に正確に把握されていたと報じられている。こうした作戦が実行されるには、現地での情報網や内部協力者の存在が不可欠だと考えられている。
タカ大丸氏も、こうした点について次のように語る。
「もし特定の人物の居場所や行動が正確に把握されているとすれば、内部から情報が漏れている可能性も考えられます」
つまり、諜報戦は単に外から情報を集めるだけではなく、組織の内部にまで入り込む形で行われることがあるというわけだ。
さらに、過去には通信機器を利用したとされる特殊な作戦が報じられたこともある。ヒズボラ関係者が使用していたポケベルが爆発したとされる事件などは、その象徴的な例として語られることが多い。詳細は不明な点も多いが、通信機器の流通過程に細工が施されていた可能性が指摘されている。
こうした事例から見えてくるのは、国家間の対立が必ずしも表の戦場だけで行われているわけではないという現実だ。諜報活動、情報操作、秘密工作など、表に出にくい手段を通じて対立が続いているケースも少なくない。
タカ氏はこう指摘する。
「ニュースでは軍事衝突ばかりが注目されがちですが、実際にはその前段階として情報戦が長く続いていることが多いんです」
中東情勢をめぐる対立は、単なる軍事バランスだけでは語れない。そこには各国の情報機関が関わる、複雑で見えにくい戦いが存在しているのかもしれない。
世界は外交だけで動いていない
国家同士の対立というと、私たちはどうしても戦争や外交といった“表の出来事”に目を向けがちだ。しかし実際の国際政治は、それだけで動いているわけではない。
イラン革命から始まり、革命防衛隊の存在、核開発をめぐる対立、そしてモサドなど情報機関の活動――中東情勢をたどっていくと、その裏側にはさまざまな思惑や力関係が複雑に絡み合っていることが見えてくる。
こうした“影の戦争”が長年続いてきた結果、2026年に入って状況は急変した。イスラエルとアメリカによる大規模な共同攻撃がイランを襲い、最高指導者アリー・ハメネイが殺害される事態に至った。核施設への攻撃も相次ぎ、革命体制の中枢が大きく揺らいでいる。
ニュースでは断片的にしか伝わらないこうした背景を知ると、現在の中東情勢もまた違った姿に見えてくるのかもしれない――。
協力:タカ大丸
1979年、岡山県出身。米国ニューヨーク州立大学ポツダム校およびイスラエルのテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。ジャーナリスト、英語同時通訳・スペイン語翻訳者として活動するほか、雑誌記事の執筆や海外テレビ番組の字幕制作にも携わる。翻訳書に、2026年2月発売の『SHO-TIME 4.0 大谷翔平 二刀流復活と連覇の軌跡』(徳間書店)のほか、『ザ・マネージャー』(SBクリエイティブ)、『モウリーニョのリーダー論』『クリスティアーノ・ロナウド』(実業之日本社)などがある。
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2024.10.02 20:00心霊中東情勢の裏側で何が起きているのか ― 革命防衛隊とモサドが繰り広げる“見えない戦争”のページです。モサド、イラン、核開発、イラン革命、中東情勢などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで