ダイオウイカが人間を食った!? 第二次大戦下の“巨大生物襲撃事件”、その意外な真相

ダイオウイカが人間を食った!? 第二次大戦下の“巨大生物襲撃事件”、その意外な真相の画像1
イメージ画像 Created with AI image generation

 巨大な海の怪物に人間が襲われるという話は、古今東西のオカルトや未確認生物(UMA)ファンを惹きつけてやまない。中でも、第二次世界大戦中の海難事故で「ダイオウイカ」が生存者を襲ったという恐るべきエピソードは、半世紀以上にわたって語り継がれてきた。

 深海に潜む未知の巨大イカが、海面を漂う人間を海中に引きずり込んだというのだ。だが、このほど歴史家が当時の記録を詳細に検証したところ、このダイオウイカ伝説はどうやら人間の記憶の曖昧さと他者の思惑が生み出した「都市伝説」であることが判明したようだ。

沈没船の生存者を襲った巨大イカ伝説

 1941年3月、インド軍のR.E.G.・コックス少尉は、軍隊輸送船ブリタニア号が沈没した後、救命いかだにしがみつき5日間の漂流を生き延びた。過酷な状況のなか、海に投げ出された仲間の一人が何らかの海洋生物に襲われて命を落としている。

 ここからが曰く付きの話だ。事件から19年後の1960年になって、コックス少尉は突如として「いかだから仲間を引きずり下ろし、私にも襲いかかってきたのは巨大なイカだった」と主張し始めたのだ。幸いにも巨大イカは途中で彼を放したというが、自身の体にある傷跡や当時の新聞記事を証拠として掲げたため、話は一気に信憑性を帯びることになる。

書き換えられた記憶と極限状態のトラウマ

 しかし、歴史家のジョナサン・ダイアーが当時の記録を洗い直した結果、証拠とされた新聞記事の内容はダイオウイカの襲撃をまったく裏付けていなかった。

 救助から7カ月後の新聞インタビューで、コックス少尉は「最初は毒針を持つタコに襲われ、サメに噛みちぎられた仲間をオニイトマキエイ(マンタ)がとどめを刺した」と語っている。言うまでもなく、タコやイカには刺すような毒針はないし、マンタはプランクトンを食べるおとなしい生き物で人間など襲わない。5日間も大海原を漂流し、肉体的にも精神的にも限界を迎えていた少尉の記憶が、トラウマによって激しく混乱していたのは想像に難くない。

 さらにその1カ月後の新聞記事では、少尉の証言はまたしても変化している。「数百万の蜂に刺されたように痛かった」という言葉とともに、傷の原因はカツオノエボシへと変わっていた。長く毒のある触手を持つこの猛毒クラゲなら、極限状態で海を漂う人間に深刻なダメージを与える容疑者としてもっとも辻褄が合う。実際、別の目撃者たちの証言にも巨大なイカなど一切登場せず、夜間にクラゲやカツオノエボシの襲撃に悩まされたと記録されているのだ。

ダイオウイカが人間を食った!? 第二次大戦下の“巨大生物襲撃事件”、その意外な真相の画像2
イメージ画像 Created with AI image generation

誰が「巨大イカ」という未確認生物を生み出したのか?

 では、なぜありふれた猛毒クラゲがダイオウイカにすり替わってしまったのか。巨大イカの話が公に登場したのは、1960年に出版されたフランク・W・レーンの著書が初めてである。ダイアーの推測によれば、コックス少尉は親しい生物学者の友人に「その傷は巨大イカに襲われた痕だ」と吹き込まれ、すっかり思い込んでしまった可能性があるという。

 日本の怪談や都市伝説でも「霊能者や専門家と称する人物のアドバイスによって、本人の恐怖体験がよりドラマチックなものに上書きされる」という現象はよくあるが、それに近い構図だろう。

 事実、1980年に放送されたSF作家アーサー・C・クラークのオカルト検証番組では、少尉本人ではなく、その「生物学者の友人」が第三者としてこの巨大イカ襲撃事件を語っている。都市伝説の基本構造である「友達の友達から聞いた話」というパターンに見事なまでに合致しているのだ。

伝説の独り歩きと深海の真実

 こうして「第二次世界大戦中にダイオウイカが人を襲った」というショッキングな物語は独り歩きを始めた。「未確認動物学の父」と呼ばれるベルナール・ユーヴェルマンスは、自身のUMA研究を裏付ける歴史的証拠としてこの話を大々的に取り上げた。さらに映画『ジョーズ』の原作者であるピーター・ベンチリーが巨大イカの恐怖を描いた小説でも、事実として引用されている。

 しかし、現実のダイオウイカは深海に生息しており、海面近くで獲物を襲うことはない。海面で目撃されるのは、病気か窒息寸前の瀕死の状態に陥ったときがほとんどだ。すべての巨大生物による襲撃を頭ごなしに否定するわけではないが、少なくともこのコックス少尉の体験談は、極限状態の記憶の混乱と、周囲の思惑が生み出した立派な都市伝説と結論づけてよさそうだ。

 恐怖と神秘を求める人間の心理が、小さなクラゲの刺し傷を深海の巨大モンスターへと育て上げてしまったのである。

参考:JSTOR Daily、ほか

関連キーワード:, ,
TOCANA編集部

TOCANA/トカナ|UFO、UMA、心霊、予言など好奇心を刺激するオカルトニュースメディア
Twitter: @DailyTocana
Instagram: tocanagram
Facebook: tocana.web
YouTube: TOCANAチャンネル

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

人気連載

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...

2024.10.02 20:00心霊

ダイオウイカが人間を食った!? 第二次大戦下の“巨大生物襲撃事件”、その意外な真相のページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

人気記事ランキング更新