地球の磁場を遮断されたハエの寿命が20%延びた!? パーキンソン病モデルの実験で浮かび上がった「見えない力」と老化の意外な関係

私たちは生まれてから死ぬまで、一瞬たりとも地球の磁場の外に出たことがない。目にも見えず、肌で感じることもないこの力が、実は細胞の働きや寿命にまで影響しているとしたらどうだろうか。
英ノッティンガム大学の研究チームが、ハエを地球の磁場から「隔離」する実験を行った。すると、一部のハエの寿命が20%も延びたというのだ。この成果は2026年9月23日、学術誌『Aging-US』に掲載された。
磁場を「ほぼゼロ」にした4つのハエのグループ
研究を率いたのは、同大学のリサ・チャクラバルティ教授と、博士課程に在籍するジェイコブ・リード氏だ。チームが注目したのは、ほぼすべての多細胞生物の細胞内に存在する小器官「ミトコンドリア」である。
ミトコンドリアは、生物が活動するためのエネルギーを生み出す、いわば細胞の発電所だ。その仕組みには電子の移動が関わっている。チャクラバルティ教授は、電子が関わる以上、磁場がこのエネルギー生産に影響を与えているのではないかと考えたという。
実験では、パーキンソン病との関連が知られる「Pink1」という遺伝子に着目した。パーキンソン病はミトコンドリアの異常と結びつけられている病気だ。チームは独自に開発した磁気シールドで地球の磁場をほぼゼロまで弱め、Pink1に関わるモデルのハエとそうでないハエを飼育した。さらに、それぞれシールドなしのグループも用意し、計4グループで比較した。
寿命は延びたが、体は衰えた
結果は研究者の予想を大きく上回るものだった。シールド内で過ごしたPink1モデルのハエは、寿命が20%延びた一方で、身体能力が低下していた。一方、Pink1モデルではないハエは、シールド内で逆に身体能力が向上したという。
チャクラバルティ教授は、何らかの影響が出ることは予想していたものの、寿命の延びやよじ登る能力への影響がこれほど大きいとは考えていなかったと明かしている。
ただし、この結果がそのまま人間に当てはまるわけではない。長寿の代わりに運動能力が落ちたように、磁場の遮断には利点と害が混在している。教授自身も、人間への応用を考えるなら慎重さが必要だとの見解を示している。その一方で、磁気を遮る部屋はすでに存在しており、そこで過ごすことが一種の「投与」になる可能性にも触れている。
生命は磁場に「合わせて」進化してきたのか
これまで磁場と生物の研究といえば、渡り鳥などの動物が磁場をどう感知するのか、あるいは宇宙飛行に人間をどう備えさせるのかといったテーマが中心だった。リード氏は、そもそもなぜ生物が正常に機能するために磁場を必要とするのか、あるいは必要としないのかは、ほとんど分かっていないと指摘する。
チャクラバルティ教授は今回の結果について、地球の磁場が、生命が進化の過程で適応してきた生物学的な環境の一部である可能性を示すものだとの考えを示した。細胞が磁場をどう感じ取り、どう反応するのかが分かれば、老化や病気におけるミトコンドリアの働きを操作する新たな道が開けるかもしれないという。
チームは今後、遮断のタイミングや強さ、対象とする生物の種類を変えながら研究を進める予定だ。量子技術を使い、細胞のエネルギーと活性酸素の生成の関係にも迫るという。
実験はまだハエの段階にすぎず、人間の老化に磁場がどこまで関わっているのかは分からない。それでも、足元から空の彼方まで地球を包むあの見えない力が、生命の時計の針を動かしているのだとしたら、これほど壮大な話もないだろう。
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