恐怖、めまい、そして”性的興奮”! 科学者が電磁場と超低周波音で「人工お化け屋敷」を作った結果

幽霊が出るとされる場所には、不思議と共通した条件がある。薄暗く、ひんやりとして、どこか落ち着かない空間だ。
ならばその条件を人工的に組み立てれば、幽霊は”作れる”のではないか——2009年、ロンドンの心理学者チームがまさにそれを実行に移した。
結果、部屋に入った参加者たちは確かに異様な感覚を訴えた。ただし、その反応は研究者が仕込んだ仕掛けとまったく噛み合っていなかったのである。
発端は「震える剣」——工場に出た幽霊の正体
この実験の背景には、1998年に報告された有名な事例がある。ある工場で、従業員たちが視界の隅に気配を感じたり、原因不明の不快感に襲われたりする現象が相次いだのだ。調査にあたったのは、そこで働くエンジニア、ヴィック・タンディ氏である。
決定的なヒントは、幽霊とは無関係な作業中に訪れた。フェンシングの剣を万力に固定して修理していたところ、刃が勝手に震え出したのだ。しかも室内の位置によって、振動の強さがはっきりと変わった。
犯人は換気用の排気ファンだった。生み出されていたのは、人間の耳では音として認識できないほど低い周波数の空気振動——いわゆるインフラサウンド(超低周波音)である。
聞こえないだけで、振動は確かに身体へ届いていた。「気配」も「悪寒」も空気の震えだったわけだ。この一件以降、インフラサウンドと電磁場(EMF)の異常は、心霊現象の物理的説明として有力視されるようになる。
円形・薄暗い・低温——実験室で組み立てられた「幽霊屋敷」
では、この仮説を逆から検証したらどうなるか。人工的にインフラサウンドとEMFを発生させれば、人は幽霊を”感じる”のか。
この問いに挑んだのが、ロンドン大学ゴールドスミス校で異常心理学を専門とするクリス・フレンチ名誉教授のチームだ。2009年、彼らは幽霊屋敷の条件をあえて再現した実験空間を用意する。
借りたのは、研究に関わったメンバーの母親宅の居間。壁に手がかりがなく、照明を落とし、室温も低く保った円形の部屋だ。心霊スポットの雰囲気を意図的に再現したかたちである。
仕掛けは巧妙だった。インフラサウンドとEMFを発生させる区画の位置を知るのは研究者だけで、参加者には一切知らされない。さらに、そもそも何も浴びていない条件の参加者も混ぜられていた。
参加者は50分間この部屋で過ごし、異常な感覚を覚えた場所を見取り図に書き込んでいく。加えて、デジャヴのような奇妙な体験をどれだけ日常的に経験するかを測る「側頭葉徴候(TLS)」の指標でも評価された。側頭葉てんかんと関連づけて語られるが、健常者にも広く見られる感覚を扱う指標だ。

反応は起きた。だが仕掛けの上ではなかった
結果は、フレンチ氏自身が驚くほど濃いものになった。報告された異常な感覚のレベルは予想をはるかに上回っていたのだ。誰かに見られている感覚、めまい、明確な恐怖。中には性的な興奮を訴えた者までいたという。人工の幽霊屋敷は、確かに機能したように見えた。
問題はその分布だ。参加者が「何かを感じた」と記録した場所は、インフラサウンドやEMFが実際に計測されていた区画と対応していなかった。仕掛けの外側でも、人は同じように震えていたのである。
代わりに浮かび上がったのが、TLSスコアだった。奇妙な感覚を日常的に経験しやすいと評価された参加者ほど、部屋の中で強い異常感覚を報告する傾向がはっきり出たのだ。
研究チームの結論はこうだ。超自然的な感覚を予測する要因としては、インフラサウンドやEMFへの曝露よりも、その人自身の被暗示性——「ここは何かありそうだ」という思い込みに引っ張られやすさ——のほうが大きい可能性が高い。
なお、フレンチ氏は後年、部屋の形状にも触れている。手がかりのない円形空間という構造自体が、めまいや回転する感覚を引き起こした可能性は否定できないという。
ただし、これは「幽霊は存在しない」という証明ではない。捉えられたのは人工的な部屋で50分間過ごした人々の反応であり、各地の心霊スポットで語り継がれてきた現象すべてを説明するものではない。
それでも、確かに言えることが一つある。仕掛けが何もない場所でさえ、人はしっかりと恐怖に震えるということだ。最も高性能な幽霊発生装置は、部屋の中ではなく我々の脳の中で静かに稼働し続けているのかもしれない。
参考:IFLScience、ほか
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