棺桶不要?死者が参加する世界一クリエイティブな葬儀屋がクール!

・銃撃で亡くなったボクサー

 そして今年1月、マリン葬儀社はプロボクサー、クリストファー・リベラ・アマロの葬儀でまたもや話題となる。

 何者かの銃撃で命を落とした(というか、プルトリコは銃撃多過ぎ)クリストファー氏。マリン葬儀社は彼の家族から、ボクサーとしての彼の人生にスポットを当てた葬儀にしたいという要望を受けた。葬儀会場の市民ホールには赤と白で彩られた簡易リングが設けられ、そのコーナーには、黄色のフードが付いたガウンを身にまとい、青いボクシンググローブを着けポーズを取ったクリストファー氏の姿が。リングの横では、生前クリストファー氏が出場したボクシングの試合のビデオが上映された。

 これらの他にも、民間救急サービス会社社長に制服を身に着けさせ、会社の駐車場に停めた救急車の座席に座らせたり、チェ・ゲバラファンの故人にベレー帽を被らせ葉巻を持たせたりと、珍妙な葬式を数多く手がけてきた。そんなマリン葬儀社を、いまや「世界一クリエイティブな葬儀屋」と呼ぶ向きもある。


■ギャングに支持され、同業者のバッシングに遭う

「故人と残された家族の想いを、クールな腕とホットなハートで実現する奇跡の葬儀屋」

 マリン葬儀社を一言で表すと、こんなところだろうか。フジテレビの「ザ・ノンフィクション」のタイトルさながら、中孝介の「サンサーラ」が聞こえてきそうな「ちょっと泣けるいい話」だ。しかし、マリン葬儀社の仕事は地元の役所や同業者、専門家を巻き込み、物議を醸すことになる

 Los Angeles Timesの記事によれば、問題となったのは「死体を立たせる」ということの意味合いが、サンファンの若いギャングスターたちに勘違いされたことだ。

 マリン葬儀社が最初に手がけたエンジェルさんと2010年に取り仕切ったデビッドさんは偶然2人とも、若いギャングコミュニティに所属していた。

 銃や麻薬がはびこるバイオレントな環境では敵にナメられたら終わり。そしてギャング集団らしく、負け犬として生きるよりも果敢に闘って命を落とした者をリスペクトする精神が尊重されている。

 そんなコミュニティで生きる若者たちは、2人の葬儀に周囲の大人達が予想もしなかった意味付けをした。かたや立った状態で、かたや愛するオートバイで疾走する状態で弔われた2人を “銃で殺されても倒れない、勇敢なギャングスター” と捉え、賞賛したのである。

 実際、エンジェルさんが立った姿で送られたいと家族に話したのは、彼がまだ6歳の時、彼同様殺され棺桶に安置された父親の姿を目の当たりにした時だった。父の亡骸を見たまだ幼いエンジェル少年は何を思ったのか? 想像に過ぎないが、「俺はパパとは違う。負けないし、死んでも倒れない」と強く思ったとしても不思議ではない。

 そんな、本来の意図とは違うギャングカルチャーの文脈で曲解されたことにより、マリン葬儀社の葬儀は若者の非行を増長しかねないとして、同業者達のバッシングに遭う。この件で、サンファンの葬儀業界団体はプエルトリコの保健省に、調査のうえこのタイプの葬儀を禁止し、遺体を棺桶に安置することを義務付けるよう要望を行うにいたったのだ。

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