「日本のチベット」の何が悪い? ― 放送禁止用語と怪獣映画『大怪獣バラン』
■あらすじと放送禁止用語
東北に破羅陀巍(ばらだぎ)様を祀る土俗信仰を持つ岩屋集落があり、そこから程近い湖には中生代の巨大生物バランが生き残っていた。しかし、科学者やマスコミなど現代文明よるバランのテリトリーへの侵入が、大人しく暮らしていたバランを怒り狂わせ、自衛隊が退治のため出動するというストーリーだ。このバランは火も光線も吐かず、今風の怪獣のような瞬間移動もしない。別名「ムササビ怪獣」と呼ばれる所以の、腕と足の間にある被膜を広げて飛行できることが最大の特徴だ(地味)。
これは90年代のレンタルビデオとCS放送で確認したことだが、問題の箇所は、生物学者がマスコミ連中に、シベリアの固有種である珍しい蝶が岩屋地区で発見されたことを説明するシーンで見られる。博士は東北地方の地図を記者達に見せながら、白い円で囲まれた岩手県のピンポイントを指してこう言う。
「北上川の上流、直径40キロのこの地点……日本のチベットと呼ばれている秘境です」
その「日本のチベット」が無音になっていたのだ。若い人なら「何が悪いの?」と思うだろうが、ソフト供給側は、実際に人が住んでいる土地をチベット扱い(秘境=僻地)することを侮蔑的と判断し(該当地区からの抗議の有無は不明)自主規制したのだ。現在であれば、ダライ・ラマ14世が世界中からリスペクトされ、ブラピ主演『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(97年)の舞台にもなったチベットは、今や「聖なる土地」という印象か。まあ、イエティがいるので秘境には間違いないけど(笑)。
かつて天気予報で当然のごとく使用していた「裏日本」も現在は死語となり、「日本海側」に言い換えられて久しい(これは心情的にわかるけど)。もっとも最近では、番組内で「一部に不適切な表現が含まれますが、作品の時代背景及び作品のオリジナリティを考慮し、そのまま放送いたします」とテロップを入れることで、加工せずに流す放送形態が定着している。ゆえに作品の最新版ソフトでも「日本のチベット」という台詞は確認できるので、そういったことを念頭に置いて鑑賞してみてはいかがだろうか。
『大怪獣バラン』
1958年、東宝
監督/本多猪四郎
脚本/関沢新一
出演/野村浩三、園田あけみ、平田昭彦ほか
■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究 家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある
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2024.10.02 20:00心霊「日本のチベット」の何が悪い? ― 放送禁止用語と怪獣映画『大怪獣バラン』のページです。放送禁止、大怪獣バランなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで