手術で心の中が見えるようになった女性 ― 人間は機能を失うと「超能力」が開花する!

■「失った」者が獲得する新たな能力

 実はこの「Wired」の記事を執筆した記者のクリスチャン・ジャネット氏は、この研究には疑問が残るという意見を率直に述べている。その主な論拠は、実験の科学的な厳密さに対する疑問や、スーザンさんが鬱病をはじめとする精神疾患の状態にある可能性を排除している点、手術前のスーザンさんが有していた共感能力に関する情報がないことや、インタビュー資料がないことなどが挙げられている。

 しかし、ジャネット氏は人間が備えている潜在能力の高さには素直に注目しているようだ。例えば、言語機能障害を持つ人が、他人の嘘を見破る能力がきわめて高いことや、前頭側頭葉変性症を患った人が新たなクリエイティブ能力を発揮することなどの例に感銘を受けている。

 今回の実験の信憑性はともかく、ある機能を「失った」者が獲得する新たな能力の数々は、人間の底知れぬポテンシャルの高さを垣間見せる驚くべき現象であることには変わりはないだろう。

 こうした能力の中でも有名なのが、脳損傷が原因の視覚障がい者の何割かが獲得するといわれている「盲視(blindsight)」と呼ばれる特異な能力だ。文字通り、見えていないはずの盲人の「視力」のことで、人間の視覚認識のメカニズムを根本的に再考させてくれる事例である。

 障害や疾病は健常な機能を「失う」出来事であると考えられているが、ときに人間はそれを補完するにあまる新たな能力を開花させることもあるのだ。人間の可能性を大きく切り開くこのような新たな「逞しい」人間観に、もっと目を向けてみてもいいのではないだろうか。
(文=仲田しんじ)

参考:「Wired」、「生理学研究所」ほか

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