公開したら殺す ― 原発、暴力団、宗教タブーに挑んだ渡辺文樹の恐るべき映像世界

――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

【前編はコチラ。後編から読んでも面白い!】

【今回の映画  渡辺文樹という監督】

 渡辺文樹は別段、強面というわけではなく(ちょっと怖いか)、上から目線で人を威圧することもしない(むしろ謙虚)。

 だが彼の場合、殴り合いもした事ないくせにヤンチャっぽい髪形や服装、ジャラジャラした装飾品などで自分を必要以上に強く見せているハンパ者と違って、飾り気のない佇まいだけで充分に胆力を感じる

 警察や右翼に何度も邪魔されようが「俺は表現したいことは命懸けで表現するんだ」と腹が据わっているのだ。

 そんな渡辺監督の「対戦相手」は『ザザンボ』(前編を参照)での地方の小村から、通常なら「相手にできない相手」へと強大化していく。その恐れ知らずのフィルモグラフィーを一気に紹介しよう。


■暴力団、原発、宗教、菊タブーにも怯まぬ監督

 まず『罵詈雑言(バリゾーゴン)』(1994年)は、あたかもホラー映画のようなポスターに、「原発のある村。女教員は便槽の若い青年の腐乱死体を愛していた…」「失神者続出!!」というキャッチコピーで煽るだけ煽ったが、内容は原発利権に絡む殺人事件を追うドキュメンタリータッチの作品。キワモノ見たさに来場した観客から「金返せ!」と罵詈雑言を浴びたとか。

 そして、次の『腹腹時計(ハラハラトケー)』(99年)から、渡辺監督の狂気の華が開花する。「イギリスで王女暗殺が映画化できるのに、なぜ日本ではダメか」と憤りを感じた渡辺監督が、昭和天皇暗殺計画の実行犯に扮するアクション巨編……と書いているだけで怖くなってくるが、案の定、上映会場には右翼の街宣車が乗り付け、会場や自治体からは「公序良俗に反する」として上映を拒否。これに対し渡辺監督は「表現の自由の侵害」と損害賠償を求め、その訴えが地裁に認められるなど、大波乱の公開となった。

阿鼻叫喚』(03年)は、宗教団体と暴力団の癒着を描き、現在も未解決の1995年に起きた東村山女性市議怪死事件の真相に迫った。某宗教団体会長の乗った新幹線にトラックが突っ込む!? …だが、「公開したら殺す」と出演者が何者かに脅迫されたため、これを案じた渡辺監督は作品を封印し未公開に終わった。

御巣鷹山』(05年)は、「木に付き刺さった首のない胴体の黒こげ死体」「頭蓋骨の粒々の皮だけの首!」とキャッコピーも危ない、1985年の日航機墜落事故に隠された陰謀を暴く渡辺文樹版『沈まぬ太陽』。中曽根元首相のソックリさんに向かって「日航機は自衛隊機によって撃墜された! その総責任者はあなたです!」と迫る主人公(渡辺本人)は、首相の息子が乗った飛行機に爆弾を仕掛け「解除して欲しければ真相を公表せよ」と脅す。

ノモンハン』(08年)は、1939年に起きた日ソ国境紛争「ノモンハン事件」で、皇族出身の将校が無謀な行動をとりソ連軍の捕虜となるが(以下省略)。

天皇伝説 血のリレー』(08年)は、天皇家の血統に関する機密を知り、特務機関に命を狙われる家族を救うため、元ベトナム戦争兵(渡辺)が戦う。

政治と暴力』(10年)は、戦時中のスパイ養成所・陸軍中野学校出身の元自衛官(渡辺)が、三島由紀夫自決事件の裏に隠された自衛隊クーデターの真相に迫る。

 そして最新作『金正日』(11年)のキャッチコピーは、「金正日は、2003年9月に糖尿病悪化で死んでいた!」だ。商品化……不可能です。

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