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■実際に知床硫黄山に行ってみた

 硫黄の噴出源である「1号火口」は登山道を1時間ほど登ったところにある。

 登山口からしばらくは登山道が森の中を通っている。立ち止まると、わぁっと大量の蚊の襲撃にあう。急いで道を進むと、視界が開ける平坦な場所に出る。そこからカムイワッカ川が見下ろせる。

 現在はカムイワッカ川には硫黄は全くない。1936年といえば、日中戦争の前年で、太平洋戦争の5年前。火薬の原料として、硫黄はすべて採掘されてしまったのだ。もったいないなぁ!

 さらに道を進むと、岩ばかりのはげ山に出る。そのはげ山斜面に溶融硫黄を噴出した1号火口がある。登山道から少しそれて純白の砂利の傾斜(あまりにも白くてまぶしい!)を登るとそこが1号火口だ。直径は40mほどでさほど大きくはない。噴気孔がたくさんあって猛毒の硫化水素ガスがもうもうと上がっている。

 硫化水素は1000ppmを一息吸うと即死するという恐ろしいガスだが、幸いオホーツク海から新鮮な風が入ってくるのでさほど心配はいらない。ちなみに2014年9月13日に硫化水素の濃度を測ったら1万ppmだった。怖~ッ! 

 溶融硫黄はこの火口から噴出した。かつては硫黄で埋まっていたのだが、それも採掘されてしまって今はほとんどない。ただ大きな岩の下にはまだ硫黄が残っている。

 7月に行けば火口の真ん中から温泉が湧いて流れていることがある。そのお湯、なんと理科の実験でおなじみの硫酸と塩酸を混ぜたような成分だ。90℃以上で強酸性(pH=1.3)。7cmほどの釘を湯に入れておくと、半日で消えてしまう

 残念ながら、硫黄は全部採掘されてしまっていて現在は見ることはできないが、すでに前回の噴火から78年もの年月が経っている。そろそろ噴火するのではないかと私は期待しているのだ。


■知床の秘境で温泉たまごを作る

 硫黄山では恒例の(?)1号火口の温泉でゆで卵を作ってみた。強酸性の温泉に卵なんか浸けたら殻が溶けるのでは…と思った読者も多いかもしれません。 …ハイ、溶けます。ところが、生卵をそぉっとお湯の中に入れると、シュワァァ~~~っと三ツ矢サイダーのように表面から泡が出て全体が包まれる。どうもその泡で卵が守られるようで、2時間くらいつけっぱなしにしていたけど、殻は薄くなっただけだった。できあがったゆで卵は、うまい!

■木星の衛星「イオ」

 さきほども少し書いたとおり、地球上でこんなに大量に溶融硫黄を噴き出す火山は知床硫黄山だけだが、はるか遠い宇宙にはそんな火山がほかにもある。木星の周りをまわっている衛星イオは、全体がまっ黄色。つまり、硫黄で覆われているのだ。「イオ」には数百の火山があって、ドロドロに融けた溶融硫黄とガス状の硫黄、二酸化硫黄などを噴出しているのだ。しかも、地球よりはるかに元気な星で、毎日どこかで噴火している。なんでもイオにある「ロキ」というカルデラにあるマグマの海は、地球の火山の噴出物を全部足して合わせた量より多いそうだ。すごいやんか!

 どこからそんなすごい火山パワーが出るのかというと「潮汐力」というものだ。木星のすごい重力で引っ張られて、「イオ」は木星の方向にびよ~んと伸びる。伸びたままスピン(自転)する様子は、ゴムボールが変形しながらまわっているようなものだ。針金を曲げたり伸ばしたりを何回も何回も繰り返していると曲げているところがだんだん熱くなってくるように、イオも変形しながらスピンしていると熱を持ってくる。それで中が融けて噴火するというわけだ。

 そんな「イオ」の研究に役立つとして注目されている日本の山「知床硫黄山」。地味な山だけど、少しでも興味を持ってもらえたらうれしい。

■山本 睦徳(やまもとむつのり)
ドキュメンタリー作家。地球科学のドキュメンタリー映画製作、記事を執筆。面白くて楽しく読める文章で読者を地球科学の世界へ誘う。http://www.earthscience.jp

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