小保方晴子氏は被害者か? 科学ライター寄稿「無視できぬプライミング効果と4つの推論」
■1万回以上成功した実験でも検証実験は失敗「プライミング効果」 推論4
もうひとつ。ごくまれにだが、実験科学の世界では妙なことが起きる。私が知っている事例は、東北大学工学部で行われた「右回りの実験」だ。ジャイロ(コマだと思えばいい)が右回転をした場合、左回転よりも軽くなるというのだ。そんなわけないだろう、という点ではSTAP細胞以上である。完全にトンデモ科学だ。
結局、検証実験は成功せず、測定器の誤差か実験の不備だろうと言われたのだが……実験を担当した学者と懇意にしている知人の話では、実験は1万回以上成功していたのだという。それは研究室のメンバーも含め、多くの人が確認しているそうだ。左右の回転の違いで質量が変化するなんていうとんでもない話を発表するわけで、それは念入りに実験をし、データを集めたという。ところがである。発表した直後から、実験が失敗するようになったのだ。機材もメンバーも変わらないにもかかわらず、ことごとく失敗する。
一体何が起きたのか? シンプルに考えれば、名誉欲からウソの発表をしたのだろう。そう考えるのが普通だ。しかし偏狭な決めつけは、科学の長年の敵である。トンデモと切り捨てるだけでは、中世の魔女裁判と変わらない。多少とも合理的な説明ができないか?
他人との関係や何気ない言葉が行動に影響する。心理学ではこれをプライミング効果と呼ぶ。老人の映像を見た人の足は遅くなり、海の映像を見た人は好きなネクタイの色を青と答えるなど、行動がその前に与えられた刺激(プライマー)によって決まるのだ。
成功すると思っていれば、実験は成功する。しかし失敗する、あるいはそんな結果が出るはずがないと無意識に思うと、実験の手順にわずかな狂いが生じる。明らかな結果が出る実験ならともかく、ごくわずかなノイズや手順の違いが影響する場合にはプライミング効果はバカにできない。自己啓発ではないが、失敗すると思うと失敗してしまうのだ。
スタッフの安定した関係の中では実験が成功しても、外と接触してネガティブな評価を受けた途端に実験がうまくいかなくなることは「ある」のだ。もちろん懐疑的な人たちが検証実験を行った結果、ネガティブな結果しか出ないことも十分にあり得る。科学は再現性が重要視されるけれど、人間という再現不能な要素が関わってくる以上、どうしても不確実な部分が生まれてしまう。だからこそ実験は、知らない人からすれば、そこまでするか!
と思われるほど異常なまでの回数が行われる。
小保方さんもプライミング効果によって、無意識に成功を避けてしまったのではないか。あまりにもネガティブな環境に置かれ、成功を恐怖した。STAP細胞のせいで、彼女は師も恋人も何もかもが奪われたのだから。
STAP細胞の真実がわかるのは、3月に発表される内部調査の結果以降だろう。その時、理化学研究所の対応も含めて、何が起きていたのか、その全体がわかるはずだ。予想外の結果が出るかもしれず、その期待に私はドキドキしている。
(文=川口友万/サイエンスライター/著書『大人の怪しい実験室』)
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